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亮の呼吸は徐々に上がり、目に見えて苦しげなものに変わっていく。 秋人の部屋を出てエレベーターに向かったが、箱が一階にあるようですぐには使えそうにない。 シドは判断を下すと、亮に激しい振動を加えないようにしながらも階段へ向けて走り出していた。 「っ、ん、は、ぁっ、し……」 亮が必死に自分の中のGMDに抗っているのがわかる。 この薬の効力を我慢させることは、決して本人の体にいいことではない。早く部屋に戻って何とかしてやらなくては、と気ばかりが焦る。 「亮、すぐだからな」 そう声を掛けてやると、胸の中の少年はぎゅっとシドのシャツを握りしめる。 「シド…、ごめ…。…めなさ…ぃ」 先ほどから亮は何度も何度もシドに謝り続けている。 恐らく先日からのケンカのことだろう。 くだらない意地で事務所の人間に迷惑を掛け、訓練も遅れがちになる――。それに対しシドはもっと考えるように言ったつもりだったのだが、こんな風に謝られては、一方的に自分が悪かった気になってくる。 シドが『くだらない』と判断したことが、亮にとって重要な何かだった可能性はないのか。 もしそうならそこに思い至らなかった自分が悪い。 必死にしがみついてくる亮を抱きながら、シドは改めてそれを突きつけられているような気がした。 「わかった。俺も意地を張りすぎた。だからもう謝るな」 階段を上りながらそう声を掛けてやるが、亮はやはり何度も何度も謝り続ける。 それはまるで何かに怯えるように、止まることをしない。 階段を上りきる頃には、亮の状態は明らかに酷くなっていた。 GMDの効力に抗っているだけではない。 別の要因がさらに亮を追い詰めている。 ひたすら何かに怯えながらも、身体の熱だけは暴走していく。そんな相反する心と体の状態に、亮は半ばパニックを起こしかけていた。 「…なさ…ぃ、シ、ご…なさ…ぃ…、レ、ぃらな…ぃ…の…ぃやだ…」 『いらない』という単語にシドの眉がぴくりと動く。 なるほど、と思った。 まさかあの日の自分の行動を、そんな風に捕らえていたとは思ってもみなかったのだ。 いや、亮本人ですら気づいていなかった節がある。 ノック・バックが始まって、初めて内部に秘められていた想いが表層に表れてきたのだ。 それは亮が育ってきた環境を考えれば、すぐにでも想像がつきそうなものだった。 そこに思い至らなかった自分の想像力のなさに、シドは蹴りをくれてやりたいと今さらながらに歯がみする。 亮の家出は無意識にシドを――いや、亮自身の価値を試す行動だったのかもしれない。 「すまなかった。迎えが遅くなったな」 亮の髪の中へ指を差し込むと、なだめるように緩やかに撫でる。 「おまえが必要だ、亮。だから迎えに来た」 廊下を歩きながら、何度も何度もそう囁きかける。 「…レ、ぃらなく…なぃ…」 「そうだ。だからもう謝らなくていい」 玄関前にたどり着く頃、亮はやっと顔を上げていた。 涙に潤んだ黒い瞳と、GMDのせいでほんのりと紅に染まった頬。 浅い呼吸を繰り返しながら、亮は背を伸ばし、口づけをねだる。薬の効果はもはや歯止めのきかない時間帯に突入していた。 揺らぐ自分の存在価値に怯えながらも、亮には快楽を求める欲望に従う以外、選択肢がないのだ。 両手ですがりついたシドのシャツに力がかかり、亮はその唇をシドのそれと重ねていく。 触れるだけのそのキスを、シドはされるまま受けていた。 そうしながらもシドは自らの右足を上げ、玄関の扉で支えにする。 両腕に抱えられていた亮はそのまま、嫌みなほど長いその足を、跨ぐように座る形にされていた。 「シ…ド…?」 わけがわからず顔を上げた亮をまるで包み込むように、シドは頭上から口づける。 「っ、…ん…っ……、んぁっ…っ…、ふ…、…ん、っ…」 右腕は亮の身体をぐるりと巻き、体重が一点へかからないように支え、左腕は亮の頭を背後から無造作につかみ、逃れようとする亮の顔を強引に固定していた。 亮の口中に入り込んだシドの舌は、激しい口づけに驚いて逃げようとする小さな舌を絡め取り、強く吸い上げる。 何度も、ちゅっと濡れた音が上がり、次第に亮の身体から力が抜けていく。それとともに怯えの為の震えが消え、亮の瞳はとろんと酔ったように濡れ始めた。 シドを仰ぐ亮の口元から、含みきれなかった唾液が淫らにこぼれ落ち、顎や頬をきらきらと光らせている。 「…はぁ…っ、シ…、ォレ、ちゅ、好き――」 「知っている」 キスの合間の宣言に、シドは虚を突かれて笑ってしまう。 再び深く口づけながら、シドは片手で亮のベルトを器用に外す。そしてそのまま右腕で亮の身体を浮かせると、下着ごとズボンを脱がせていた。 既に亮のものは痛々しいほど張り詰めており、その愛らしい姿とは裏腹の淫らな滴を先端から滲ませている。 「っ、は…シ…ド…ぉ、ほし、よ…、とぉる、に、くださ…い」 脱がされたことでさらにギアが入れられ、次第に亮の歯止めが取り払われていく。 ここ何回かのノック・バックは、自分一人で処理していたせいもあるのだろう。久しぶりのシドのケアに、今日の亮は淫蕩さも甘えっぷりも、いつも以上に激しいようだ。 シドの足の上で自ら腰をすりつけ、足を揺すられる度、あられもない嬌声を上げる。 ここが室内ではなく、まだ廊下であるということなどわかっていない。いや、わかっていたとしても、今の亮にはどうすることも出来ないのだろう。 「亮、部屋に入ろう」 意外なほど声が響く廊下の状況に、シドがそう声をかけるが、亮はいやいやと首を振り、泣きそうな顔で続きをねだる。 「ぃらな…? シィ、ォレ、も、…らなぃ?」 行為の中断が自分の不要とイコールで結ばれてしまっているらしい。今回のこの公式を作り出した原因が自分にあるとわかっている以上、シドは亮の切ない顔に抗うことができない。 「そんなことはない」 シャツのボタンを外すと、亮の頬や耳に口づけを落としながら指先を胸元に滑り込ませる。 触れられてもいないのにツンと立ち上がった胸の飾りを、親指の腹で優しく転がしてやった。 「ふぁっ、あ、んっ、やぁ…ん」 それだけで達しそうなほど亮はびくびくと反応を返し、身体を淫奔にくねらせる。 周囲の温度は一気に下降し、空気の中にきらきらとした粒子が瞬き始めていた。 シドは亮を再び抱え上げると、足下の玄関マットの上に亮の身体をそっと横たえてやる。 亮は何かを察したかのように膝を立て、潤んだ瞳でシドの顔を見上げた。 黒い円らが誘うように揺れている。 「シィ…、はや…く、ここ、くださ…ぃ」 亮は自らゆっくりと足を開くと、右手で己の膝をつかみ、さらに大きく広げてみせていた。 中心には立ち上がった未成熟なそれが滴をしたたらせ、ふるりと震えている。そしてそのすぐ下に、うっすらと色づいた窄まりが、小さな花冠のごとくひくひくと息づいていた。 「――っ」 あまりの淫靡な映像に、シドは目眩を覚える。 今日の亮は今まで多少なりとも存在した『嫌がるそぶり』というものがまるでない。 この数日間、よほど寂しく不安な日々だったのだろう。 なるべく相手が喜ぶように、なるべく自分が気に入られるように、滝沢に教え込まれたであろう言葉で、亮はシドに精一杯甘えていた。 「まったく……おまえはわかってやっているのか」 何にせよこれも自分のせいだ。 後から亮にまた何か言われるかと思いながらも、シドは亮の両足を手でつかみ、亮の幼いそれをくわえ込んだ。 「っ、あっ、んん、ふあ…」 先端を舌先で弄び、滴り落ちる唾液と亮自身の露で、亮の後ろにも指を挿入する。 「――、ぐ、ん…っ、は……、シィ、つめた…よぉっ…」 亮は上半身を半ば起こしながらシドの頭に手を添えて、ひくんと身体を強ばらせる。 指を二本、三本と増やしながら、シドはゆっくりと前立腺の辺りを擦り上げてやった。 「ひぁっ! ぃぁっ、シ、そこ、レ、あっ、あんっ、びくんて、なる、ぃんっ、」 シドは指先で亮の中をかき混ぜながら、そろりと口中から亮自身を解放する。濡れそぼり、立ち上がりきったそれを本人に見せつけるように、先端だけちろちろと舌先で弄って見せた。 「ふぁ、ゃらし…の、とぉる…シィと、ゃらし、こと、して、の…」 「っ、――」 シドは己の中にぞくぞくと押さえていた欲望がわき上がってくるのを感じ取っていた。 このままでは自分の歯止めがきかなくなる。 「シィ…、はや…く、くださ。…シィの、おっきぃの、とぉ…の、びくんて、なる、とこ…、いれて、…ださ…ぃ」 シドはわずかに目を細めると顔を上げ、亮の唇を己の唇で塞いだ。 亮の両足を抱え上げ肩に乗せると、小さな身体を押し倒す。 右手で亮の中を掻き回しながら、左手の爪先で亮の首筋に浅く傷をつけていく。 「…、っな…に? シ…?」 うっすらとにじみ出した深紅の血が、次第に大きな粒となって亮の首に浮かび上がる。 シドはその深紅の宝玉に舌を這わせ、そのまま強く吸い上げていた。 「っ!! ふあっ…」 亮がその感触にびくりと身体を反らせる。 逃れようとする身体をがっしりと左腕で固め、シドは傷口を広げるかのようにそこを舌先でいらう。 「ぃゃぁっ、ぁっ、――はぁっ、シィ…、あっ、ォレ…なか、から、なにか…出て…いぱい…、き…ちぃ…、ぃぃよぉっ」 徐々に亮の表情は蕩けていき、両腕をシドの首に回して腰を揺すり始める。 耳元で上がるぴちゃぴちゃという淫乱な音が、亮をさらに興奮させているようであった。 亮の中を擦り続けるシドの指先は、徐々に力を増していく。 それと共に、周囲の煌めきはいっそう量を増やし、天井につけられた照明や非常灯がチカチカと瞬き始めていた。 「ぅんっ、…、んんっ、は……、レなか、こおちゃ…」 亮はシドの動きに会わせて淫らに腰を振り、必死にシドの首へしがみつく。 極寒の地と化したビルの四階は、淫奔な水音とそれに責められる亮の淫奔な喘ぎ声、そして荒く交わされる呼吸音だけが満たしていた。 「ぁっ、ぁっ、はぁっ、んっ、シ、の、ゆび、ゆび、がぁ、」 亮はシドにしがみついたまま、がくがくと震え始める。 さきほどまでシドにモノを入れて欲しいとせがんでいたことなど、すでに頭の隅にもないようだった。 シドは亮の首筋をゆっくりと舐め下りながら、残った手で胸の飾りをくりくりと転がしてやる。 「ゃぁっ、シ、も、らめ、も…ぁっ、ぃちゃ、んっ、とぉぅ、ぃちゃぃ、ま…ぅ、…………ひゃうっ!!」 深く突き立てられたシドの指先が引き抜かれた瞬間。 亮は上半身を反らせると、息を詰め、大きく一度びくんと強ばった。 そして次の瞬間、亮の幼い自身から淡いミルクが恥ずかしいほど何度も吹き上がる。 「ふわぁぁあっ、ぃぁっ、でちゃ、し、はぁっ、あっ、あっ、とまな…よ、とぉぅ、ぜんぶ、れちゃ……っ」 シドに腰を抱え上げられているこの格好では、白濁の滴は流れとなって亮の腹を下り、胸元へと溜まっていく。 シドはその様子を上から眺め下ろしながら、ゆっくりと息を吐き、身体を折ると亮に触れるだけのキスをした。 ひくひくと身体を痙攣させながら、余韻に恍惚となっている亮をそのまま抱き上げる。 「――ほら、入るぞ」 シドは冷え切った亮の身体を温めるため、バスルームへと向かっていた。 |