■ 3-21 ■ |
ガードナーは亮の腕に採血用の器具をしっかりと固定すると、目を閉じたままの亮の姿をじっと見下ろす。 今、亮のアルマはこの身体を離れ、滝沢の待ちわびる研究用のセラへ誘われており、この肉体はいわば空の状態である。 アルマの宿っていない肉体はとても無機質な存在であり、人としての形を持ち合わせただけの、精巧な入れ物に過ぎない。 もちろんアルマの残滓は細胞の隅々までこびりついており、それゆえその採取のためにガードナーは現在採血作業を行っているのであるが、それでもガードナーにはこの少年の肉体が透き通るような素材で作られた作り物のように思えた。 ベッドに横たわる少年の髪をそっと撫で、その手を頬へ、首筋へ、胸元へ、脇腹へ、下肢へ、爪先へ――ゆるゆると降ろしていく。 しかし亮のあの零れそうに美しい瞳が開かれることはない。 ガードナーの手がそろそろと亮のシャツのボタンをはずし大きく胸元をはだけさせ、そして下肢を覆うズボンや下着を取り去っていく。 IICRでの採血室では決してみることの叶わなかった少年の白い肌が、薄いカーテンの向こうから差し込む水浅黄に照らされて、キラキラと輝いて見えた。 我知らず、次第にガードナーの呼吸は上がっていく。 何度も口中に湧く生唾を飲み込みながら、興奮で熱を持った指先でその陶器のような――それでいて柔らかな亮の肌に触れる。 「これが、――ゲボの肉体」 ため息混じりに言うとベッドの上へじりじりと乗り上がり、腕の下で静かに眠る少年の唇へ、己の唇を重ねていた。 柔らかな感触にガードナーの頭の芯が痺れていく。 しかし、深くは口づけない。 睡眠中――特にセラに潜っている今、呼吸器系に異常があっては披験体の命に関わるからだ。 だが、それ以外は別である。 ガードナーは情欲に濡れた荒い呼気を繰り返しながら、亮の細い首筋を舐め下り、その手は胸元や脇腹に吸い付くように這い回る。もちろん、採血器具につながれた腕の部分にだけは触れないように気を配りながらである。 「っ、はぁ、はぁ……、これが、ゲボの身体――、ふはっ、はっ、はっ、すばらしい……」 舌先が少年の桜色の乳首を捕らえると、味わうように吸い付き、口中で何度もリズミカルに弾く。そうすることで、柔らかだった胸の飾りは徐々に固くなり、ガードナーにそうされることの快感を伝えるようにつんと尖りを見せ始める。 「アルマすらないというのに、っ、こうされることが気持ちいいんですね、トオルさん――、はっ、はぁっ、はぁっ、まったくしようのない――」 ギシギシと簡易ベッドを軋ませ、ガードナーは意識のない亮の身体の隅々まで舐めつくしていく。 指先で胸の尖りをことさらに虐めながら、臍の中を舌でえぐり、さらにその下――少年の幼根へと粘り着く視線を落としていた。 少年の未成熟なそこはかすかに頭をもたげ、ふるりと揺れている。 ガードナーはごくりと溢れ出る唾を飲み込むと、その花心へ舌を這わせていた。 それと同時に体を変え、少年の両足を持ち上げて大きく開かせる。 亮のもっとも恥ずかしい秘所が、淡い息づかいでガードナーの前にさらけ出されていた。 ガードナーが指先で亮の幼根をくちゅくちゅといらう度、うす紅色の窄まりが誘うようにひくつく。 ガードナーはIICRでの亮との面会のことを思い出し、たまらない興奮と快感が湧き上がるのを感じた。 あの監視の厳しいIICR内では絶対にあり得ない状況だ。 カラークラウン以外は決して触れられない相手。 まだソムニアについて何も知らず、ひたむきに仕事をこなそうと耐えていた純粋で無垢なゲボ。 あの清廉な乙女のようだった少年の肉体を、ガードナーは今味わっているのだ。 礼儀正しくいつも自分に挨拶をしてくれた亮の姿を思い出し、ガードナーはぶるりと震える。 「トオル=ナリサカ、っは、はっ、ぁっ、トオル――」 固くした舌先を亮の窄まりに差し込みのたくらせながら、指先で完全に頭をもたげ透明な雫を滴らせている少年の先端をくちくちといじる。 「っ――、」 眠っている亮の身体が生理的にひくりと跳ね、次第に呼吸が速まってくるのがわかる。 アルマのない肉体がガードナーの行為に反応しているのだ。 「アルマすらないというのに、おまえは本当に、っ、はっ、はっ、ぁっ、こんなに感じて――しようのない、っ、はっ、しようのない――」 ガードナーは舌を引き抜くと腰を抱え上げ、右手で幼根を擦り上げながら、左手指を亮の中に突き入れていた。 亮の内壁がガードナーの二本の指に絡みつき、ねだるように絞り上げる。 「っふは、っ、はっ、ゲボの肉体、これが、ゲボの身体、――っ、」 恍惚とした表情で亮の体内の感触に酔いしれ、苦しげに息を吐く亮の表情を視姦しながら、ガードナーはズクリと深く亮の中を抉っていた。 「っ、――」 亮の身体が大きくびくんと硬直し、ガードナーの手の中で白い飛沫を迸らせる。 痛々しいほど張った幼い花心は、ガードナーの大きな手の中で何度もびくびくと脈打っていた。 「ふ――、っ、は、トオルの精液、ゲボのアムリタ――」 麻薬患者のように瞳孔を開きながら、ガードナーは興奮のあまり震える手でポケットの中から採取用の検体チューブを取りだし、そこに手の中の温かな液体を保存する。 それがうまく採取出来たことを確認するとポケットに戻し、残った白い飛沫を味わいながら舐め取っていく。 「これがアムリタの味――、素晴らしい――、なんと甘くて――美味しい……。っ、素晴らしい! 私は今、っ、トオルのアムリタを――飲んで――、っ、は」 指の間にあるものまで残らず舐め取り、次に亮の幼根を口に含む。 亮のミルクを一滴たりとて無駄にするのは惜しいのだ。 ここまできて、遂にガードナーの我慢は限界に達していた。 多少危険が伴おうとも、ゲボの身体を全て味わいたい。 もちろんアルマが肉体にない今、異神との扉が繋がることはなく、ガードナーの能力が高められることがないのはわかっている。 だがトオルの中へ身を埋め、意識のないトオルの肉体を戦慄かせ、そして少年の一番奥へガードナーの遺伝子を送り込んでやりたい。 そう。ただ、このトオルの肉体を犯しつくしたいのだ。 『がーどなーさん、とおる、ちゃんとできるよ?』 一生懸命な様子でそう言った亮の顔を思い出し、ぞくぞくと掻きむしりたいような情欲が背を走る。 「ちゃんと、はぁっ、はっ、私にもおもてなし、できるんですよね? ――トオルさん」 ガードナーは白衣の裾を割りベルトを緩めると、前をくつろげ張り詰めた己のものを取り出していた。 ガードナーはかつてないほどにそそり立った己を亮の窄まりにあてがうと、興奮の為、呼吸を何度か痙攣させた。 今自分はゲボの中に挿入するのだ。 「トオルさん――、トオル、っ、ぁっ、トオル――」 亮の両足を抱え、ガードナーがぐいと腰を突き込もうとしたその時である。 不意に表から数台の車のエンジン音と、甲高いブレーキ音が聞こえてきた。 それとほ同時に忙しなく扉が開けられ、ザカザカと数名の男のものらしい靴音が厳めしく駆け寄ってくる。 冷水でも浴びせられたように、ガードナーの意識はいつもの研究者に戻されていた。 「――ちっ。あのバカマフィアめ。だから言ったのだ」 唇を噛み舌打ちをすると強引に自らのものをズボンへ収め、亮の腕から採血用の針を引き抜く。 一番重要なことは採取した亮の検体を守り通すこと。その為には毛ほどの危険も冒すことは出来ない。 「トオルさん、また近いうちにお会いしましょう。――お迎えがいらしたみたいですよ」 言いながら、たっぷりと重さのある亮の血液パックを手早くテーブル上のアタッシュケースに詰め込むと、ガードナーは亮の身体を残し、足早に部屋を出て行った。 「成坂、ちょっと待て! 叔父貴んとこの連中を先に――」 武智の言葉も聞かず、修司は車を降りるやいなや川縁の廃工場へ向けて走り出していた。 武智の連絡で途中合流した親武会の若い者たちが、もう一台のセダンからバラバラと降り立つと、それぞれ懐に手を忍ばせつつ修司の後を追う。 「郷中、頼む。あいつに無茶させないでくれ! あいつ、銃の前だろうと平気で飛び出してく」 武智も後に続きながら、前を走るこの中では一番年嵩らしい四十路過ぎの男に声を掛けていた。 がっちりとした体格の熊のようなその男は振り返ると、 「わかってますよ、ぼん。ぼんは下がっててください。ケガでもされちゃオヤジに叱られます」 と、真剣な目で頷いて見せた。 武智はそのセリフに苦笑しながら肩をすくめて答える。 自分があくまでも戦闘向きでないことは、己が一番わかっている。 武智の得意とするところは世渡りと情報戦であり、実のところこういった身体を使うリアルな戦闘は範囲外なのだ。 「ぼんのご友人、無理にでも止めますから――」 そう郷中のセリフが終わらぬ間に、前方の建物、大きく開けられたシャッターの内側から数発の銃声が轟き、二人の視線がそちらへと転移する。 しかし顔色を変えた彼らの前に、数名の滝沢の部下らしき男達がたたき出されて来たのを目にし、呆れたように熊は垂れ気味の眼をしばたかせていた。 郷中の部下達は未だシャッターの内側には入っていない。 となるとたたき出した相手は一人しかいない。 「武智! 僕は奥へ行く。こいつら頼むぞ!」 シャッターの下からひょっこり顔を覗かせた修司は、瞬く間に姿を消し、奥へと向かったようだった。 「ぼんのご友人は、ぼんよりウチの家業に向いておられるようですな――」 「あいつ学生の頃色々武道やってたからな。まさかこれほどナチュラルに実践できるとは知らなかったが」 修司が中学、高校、大学と、剣道や柔道など学生武道に力を入れていたことは知っている。大会ではいつもそこそこの成績を収め、高校時分には全国へ出場したこともあるほどだ。 だがそれはあくまでも部活レベルの話であり、こんな風に実際の命をやりとりするような現場で使えるものだとは思っていなかった。しかも全国へ出場した折も、決して優勝をねらえるという順位ではなかったはずだ。 翌日学校で話を聞き、「惜しかったな」と声を掛ける武智に、修司はいつも肩をすくめて「僕は本番に弱いタイプみたいだな」とばつが悪そうに笑うだけだった。 あの頃はこの完璧超人でも、腕っ節の問題になればそうはうまく行かないんだろうと逆に安心したものだが、今考えるとあの笑いは試合に負けた気恥ずかしさではないように思える。 大学の三回生辺りからは父親のビジネスの手伝いをするようになり、部の方へはフェードアウトするように姿を見せなくなったと聞いている。しかしうまいことに、大学時分には成績も中の上程度だった修司をしつこく引き止めるコーチや先輩もいなかったらしい。 要はそっちの方ばかりに関わっているわけにはいかないと、己でわざとブレーキを掛けていたのではないかと思えるのだ。 もともと並外れた運動センスと卓越した集中力を兼ね備えている修司のことだ。技を習得していくことに苦はなかったはずだ。その上多分修司の性格上、武道の世界に身を置くことは本人の肌にこれ以上なく合っていたというのが本当のところだろう。 しかし、それを捨て、修司は敢えて父の片腕となり亮の身を保護することに心血を注いだ。 大会後。あの時の少し困ったような笑いは、『負かされた』ことに対しての気恥ずかしさではなく、『負けておいた』ことに対しての自責の皮肉だったのではないだろうか。 とにかく、この状況を見て「僕は本番に弱い」とは二度と言わさないと武智は苦笑する。 「だがそれでも成坂は素手だ。銃持ってるヤツはこっちで始末つけてくれ」 武智の言葉に郷中はうなずくと駆け出し、その後に続いた武智もシャッターの内側へ入り込んでいた。 部屋はいくつにも別れていた。 工場の最奥に設えられた白い簡易ボードの壁。そこについている扉の数を見るだけで、十数個に及ぶブースに区切られているのがわかる。 「武智はあっちの方から見ていってくれ」 「わかった」 郷中の部下たちがブース群の入り口を滝沢の手下たちから守護している間、修司と武智、郷中の三人は、手分けして探索に当たることにした。 時折廊下の向こうからあがる銃声が、修司たちの心を逸らせる。 そうして十分も経った頃だろうか。 中央付近の部屋を探索していた武智の耳に、亮の名を呼ぶ悲鳴にも似た修司の声が響いて聞こえたのだ。 武智が声のしたはす向かいのブースへ飛び込むと、修司がベッドへ横たわる亮の身体を抱き起こそうとしているところだった。 「亮っ、――亮っ!」 何度も名を呼びながら、修司は亮の身体を揺すっている。 しかし簡易ベッドに寝かされ、半裸の姿にされた亮は目を開けることをせず、まるで作り物のように身動き一つ取らない。 消毒臭い部屋の中、ベッドに掛けられたシーツよりもなお白い肌が、血の気を失い、透き通るようにぼんやりと輝いて見えた。 「亮っ、目、開けろ。とおるっ!!」 ベッドへ乗り上げ自分の膝に抱えるようにして亮を抱く修司は、震える手で何度も亮の頬を擦る。 その整った口元から零れる声があまりに悲壮で、武智は言葉を掛けることもできず、その場に立ちつくすしかない。 「成坂さん、その子は入獄システムにつながれている。心が遠くに飛んでるんですよ。大丈夫、死んでるわけじゃない。詳しい処置の仕方はお知り合いのソムニアに連絡して聞いた方がいい」 後から駆けつけた郷中が武智に代わって声を掛けると、初めて修司は顔を上げ、そこにいたのかといった風に武智たちを眺めた。 「――そう、ですね。その通りだ」 ようやく瞳に冷静な色を取り戻した修司は、亮の身体に己のジャケットをかけてやると、携帯電話を取り出し秋人達に連絡を取る。 亮の身体の至る所には赤い内出血の跡が散っており、その薄い腹は淡い白濁の飛沫に濡れている。一目で悪戯されたのだろうことがわかった。そして腕から流れ出る小さな赤い染みだまり。 修司の携帯に送られてきた動画が思い出され、武智の全身の血は怒りで沸騰しそうだった。 「ぼん、ちょっといいですか」 修司の怒りが伝染したようになりかけた武智の耳に、郷中が前の修司に聞こえるのをはばかるように小さな声で言う。 それではっと引き戻された武智は一歩後退すると、部屋の外で郷中の報告を聞いていた。 「あちらの部屋に、もう一人、システム使用者がいます。四十代スジものらしい人間で――おそらく、滝沢という男ではないかと」 郷中が視線で示したのは、すぐ隣の部屋だ。 武智が確認のため部屋を覗けば、確かに滝沢がベッドに横たわり、死んだように眠り続けている。 「――成坂には言うなよ。あいつ、物騒な真似しかねない」 今の修司にこんな光景を見せようものなら、後先考えず激情に任せて取り返しの付かないことをしかねない。 武智には友人を殺人者にするような趣味はないのだ。 「わかりました。では――そうですね。この男の身柄もこちらで預かりましょう」 「すまない、面倒かけるな。後は頼む」 「よしてください。これは我々の業界の問題でもあります。新興勢力にソムニア絡みでこれ以上のさばられても困りますから」 入獄システムの小さな液晶モニターをチェックし始めた郷中をその場に残し、武智は修司たちの部屋へととって返す。 部屋の扉をくぐると、修司がちょうど電話を切るところであった。 「セラの方へはクライヴさんが潜っているそうだ。とにかく亮の身体を連れて帰る」 修司は武智にそう告げると、亮の身体をふわりと抱え上げていた。 「おいおい、今亮の魂はどっか飛んでるんだろ? 大丈夫なのか、その枕元の機械から離しても」 「システムは潜るときだけに使うもので、帰りは自然に自分の身体へ戻るそうだ。それに――とにかく僕はここから早く亮を連れ出したい」 『おうちにかえる』と何度も泣いて訴えていた亮の姿を思い出し、武智も強くうなずく。 「わかった。外のやつらに退路を確保させる。おまえはしっかり亮を守って走り抜けろ」 うなずくと修司はもう一度確かめるように亮をぐっと抱きしめ、部屋を出た。 |