■ 4-19 ■ |
事務所についてもエレベーターは使わなかった。 ここへ戻ってきてはいけないとあれほど釘を刺されていたのだ。 見つかってはいけないと、亮は無意識に階段を選んでいた。 四階の廊下へ出ると薄暗い蛍光灯に照らされた扉が、亮の視界の先で鈍く光っている。 ここでようやく亮は立ち止まっていた。 本当に自分はあの部屋に戻ってきたのだろうか。 それともこれも、亮の見ている夢の続きなのだろうか。 青白く浮かぶ見慣れたドアは非現実のように見え、亮は恐る恐る近づくと手をかけた。 ノブを回せばやはり鍵がかかっている。 亮はポケットから鍵を取り出すと、音を立てないように細心の注意を払い差し込み、ゆっくりと回していた。 ガチャンと大きな音が鳴る。 一瞬背を竦ませた亮は、それでもゆっくりと鍵を引き抜くと、そろそろと中を覗き込む。 室内は真っ暗だった。 足元を照らす非常灯に照らされた玄関には靴もなく、模造大理石で作られた床は硬質な輝きを照り返すのみだ。 亮はそこでふうっと息をついた。 心の中に「もしかして」という想いが少なからずあった自分に気が付く。 急に正気に戻った気がして、亮は自嘲気味に口元を緩めると、中に入り扉に鍵をかけなおす。 ここに帰ってきたとしても、亮は一人なのだ。 そうわかってはいても、亮の足は先に進むことをやめなかった。 少し煙たいような懐かしい部屋の匂い。 短い廊下の先にある窓から差し込む青い月の光は、数ヶ月前までと全く変わらない。 亮は裸足のままぺたぺたとフローリングの廊下を進むと、キッチンを覗き込み、リビングを覗き込み、バスルームを覗き込んだ。 ここ数ヶ月使われていないそれらは、時が止まったように夜の黒に沈み、亮の胸を締め付けた。 ――もう、いない。 ――もう、会えない。 なぜだかその言葉がぐるぐると亮の頭を支配し、亮は何度か引き攣るように息を吸い込む。 ぎゅっとTシャツの胸元を右手が握り締め、左手は寝室の扉を開けた。 そこで、亮の胸が一度、ドキンと高鳴る。 「――っ」 嘘なんじゃないかと。幻なんじゃないかと、自分の頭を疑い、首を傾げてみた。 何度か目をこすり、近づいて本物かどうか見極めようと、ゆっくりと歩を進める。 寝室の大きなダブルベッド。 そこに眠る長身。 窓辺の月明かりに照らされた髪は不思議と元の朱に輝き、白い面はギリシャの彫刻のごとく静謐だ。 膝から下はベッドの下に投げ出したまま、無造作に身体を横たえたシドが、そこにいた。 黒のスラックスに包まれた足の先には、靴が履かれたままである。 考え事をしていたり疲れていたりするとシドは、時折こうやって靴のまま部屋の中に上がりこむことがあったことを、亮は思い出していた。 そろり、そろりと亮は動かないシドに近づき、息を殺して横から顔を覗き込む。 遠くからではわからなかったが、シドの胸は緩く上下し、今シドが眠りの中にいることを亮に教えていた。 「……。」 亮はシドの名を呼ぶこともできなかった。 声を出せば目の前から消えてしまいそうで、これが本物の出来事じゃないと気づいてしまいそうで、亮は声を殺したままシドの身体に触れないように、ベッドの上に乗り上げる。 シドの身体をまたぐように、薄く開かれたシドの両腕と身体の間に膝を突き、シドの顔の両脇に手を突くと、そろと顔を近づけていく。 シドの身体を閉じ込めるようにしゃがみこんだまま、亮はゆっくりとその冷たい唇に自分の柔らかな唇を触れさせていた。 シドの呼気が亮の頬をかすめ、ドキンとさらに心臓が鳴る。 夢じゃない。 シドはここにいる。 そっと顔を離すともう一度シドの顔を眺めるが、シドが目を覚ます気配はない。 変わらぬゆったりとした呼吸は、シドが深い眠りの中にいることを示している。 亮はもう一度シドに口づけする。 今度は、ちゅっと音を立ててみた。 それでも目を覚まさないシドに、亮は次第に大胆になっていく。 ゆるりと唇を開き、舌先で小さくシドの下唇を舐め、甘く歯を立てる。 ドキドキと亮の心臓がうるさいほど高鳴り、亮は熱に浮かされたような表情で、シドにキスをした。 ひとしきり口付けに酔いしれた亮は身体を起こすと、膝立ちで、青く眠るシドを見下ろす。 筋のがっちりと張った大人の首筋は、だが白く滑らかで、その先には広い肩と厚い胸、鍛え上げられた腹筋が白いシャツに無造作に包まれている。 第二ボタンまで外されたシャツの襟元からは鎖骨が覗き、月明かりに濃い影を落としていた。 亮はそこへ何かを探すように視線を落とす。 それは、赤い印。 亮が目覚めてすぐ、混乱の中でシドの胸元につけたあの印を亮は無意識に探していた。 混乱と戸惑いの中、それを見つけた瞬間の不思議な安堵感。充足感。そして、甘い痺れ――。 あの甘く満ち足りた感覚を求め、亮は契約の赤を探す。 だが、あれから数ヶ月たった今ではもう、そんなものが残っているはずもない。 白く光るシドの胸元に亮はためらいもなく顔を落とすと、あの時と同じ場所に唇を寄せ、ちゅっと音を立てていた。 少し顔を離しそこを確認してみるが、そんなわずかなキスではほとんど跡は残っていない。 亮は小さく首をかしげ考え込む仕草をすると、再び顔を落とし、今度はそこへ舌を這わせ、躍起になって強く吸い上げる。 そうするうちに、亮の呼吸は上がり、大きな黒い瞳は媚色に濡れ始める。 顔を上げ、シドの胸元に見事な朱の花びらが散ったことに満足すると、亮は膝立ちのまま、シドのシャツのボタンを上から順番にゆっくりとはずし始めていた。 亮の心臓がドキンドキンと痛いほどに打ち、亮は自分の目の前がふわふわと揺れている感覚に襲われる。 まるで、自分が自分でないみたいで、だけど止められなくて――ただ夢中で震える指先に力を込めた。 ボタンを四つはずすだけなのに、震えてうまく力の入らない指先では不思議なほど時間がかかる。 だが、シドが目を覚ます気配はない。 二分を経過し、ようやく最後のボタンを外し終えた亮は、そろそろとシドのシャツを大きく開いていた。 現れた見事な肉体に、亮の頬にありえないほど朱が昇る。 白く輝く均衡の取れた見事な肉体の胸元には、自分が先ほど口付けでつけた赤い印が淫靡に光っている。 「っ――、ぁ……」 途端に亮は現実に引き戻されていた。 ――オレ、何してんだよ……。 凄まじい羞恥が亮を襲い、腰砕けになって膝立ちのまま背後へ後退る。 その瞬間だ。 それまで力なくシーツの上に投げ出されていたシドの腕が恐ろしいスピードで上がり、亮の腕をつかんでいた。 そのまま引き寄せられ、バランスを崩してシドの胸に倒れこんだところを、もう片方の腕に拘束される。 「っ、な……」 驚いて逃げようとした亮は、そのまま身体を反転され、いつの間にか自分がシーツの海に押し付けられる格好となっていた。 「何すんだよっ、バカシドっっ」 突然の襲撃に亮は暴れ、その場から抜け出そうともがく。 だがのしかかるシドの身体も、手首を掴んだその大きな手もそれを許さない。 「それはこっちのセリフだ」 シドは亮を上から押さえ込んだまま、もう片方の手で亮の顔をぐいと正面に固定した。 亮の目がシドの琥珀を捕らえていた。 「――俺を襲うとはいい度胸だ」 五センチ手前で囁かれるその声に亮はぞくりと身震いし、それと同時に火のついたように顔を赤くする。 「な――、べ、別に、オレは……」 「別に、何だ。この続きは何をしてくれるつもりだったんだ?」 シドの言葉に亮の顔はさらに赤く染まり、泣きそうに情けなく眉を寄せていた。 そう言われてしまうと亮には何も言い返せない。 本当に、自分が何をするつもりだったのか、どうしたかったのかわからない。 「わかんなぃ……、オレは、ただ……」 うろたえた亮の様子に、シドの唇が意地悪く引き上げられる。 「人が疲れて寝てれば好き勝手だな。まったく――」 言葉を終わらせる前に、シドは自ら亮の唇を塞いでいた。 だが亮が先ほどまでシドに散々施していた可愛らしいものとはわけが違う。 亮の顔を片手で押さえつけたまま、かみつくように激しく深く合わせていく。 「――ん、っ」 息苦しさに喘ごうとする亮の舌を絡め取り、吸い上げ、唇を開いたまま角度を変えてまた口付ける。 「ふ……、ぅ……」 その容赦ないキスに力を失った亮の腕を放すと、そのままシドの手は亮のTシャツを捲り上げ、中へ進入を果たしていた。 腰から胸にかけ、冷たい手のひらが撫で上げていく。 「ん――」 唇をふさがれたままぞくりと身をそらした亮は、解放された手でぐいとシドの髪をつかみ引っ張り上げる。 さすがのシドもその攻撃にいったん顔を上げると、亮の手を掴み上げていた。 「つっ、こら、放せ、バカ」 「知るか、バカシド! どエロ、変態! 死ね!」 亮は肩で呼吸しながら、目の前の赤い長身を涙目で睨み上げた。 確かに最初にしかけたのは自分だが、こんな風にいきなり上から押さえつけられれば、先ほどまでの戸惑いや罪悪感は消し飛び、いつものようなケンカ腰の態度が蘇ってしまう。 意地悪そうな微笑を浮かべて見下ろすシドの顔に、自分が一瞬でもさっきのキスに酔いそうになったことが許せなかった。 亮のした行為をおちょくる為に、こんな真似してイジワルをしているに違いないのだ。 なんでこんなバカで嫌なヤツに、あんなに会いたいなんて思ったんだろう。 腕を掴み上げられ、亮は顔をしかめると、ようやくシドの髪を解放する。 「痛いっ、放せよ、放せっ、バカシドっ! 嫌いだ!」 耳を倒し粋がって吠え掛かる子犬のような威嚇に、シドは目を細め一度大きく息を吐くと、今度は触れるだけの優しいキスをする。 亮は思いもよらないシドの反撃に、怒りに震えたまま動きを停止していた。 亮の鼻先一センチの距離で、シドが囁く。 「まったく――俺の苦労も知らないでいい気なもんだ」 「っ、だからっ、だから言ってるだろ! オレだってシドの役に立てる。オレだってちゃんと手伝えるって……」 困ったようにため息混じりに言われた言葉に、亮は言い訳でもするようになぜか必死にそう言い募っていた。 そんな亮の様子に、シドの口元に再び意地悪な微笑が浮かぶ。 「――なるほど。さっきのあれがお前の言う『お手伝い』ってわけか」 「ち……、ちが、そ、じゃなくて――」 シドの言葉の意味することを感じ取り、亮は再び頬を染め否定する。 「手伝いを途中で投げ出すのは良くないだろう」 言いながらシドに耳朶を噛まれ、亮は身を竦ませた。 「ぁ……、ちが、て、いってんだろ――」 ちゅっ、ちゅっと亮の聴覚を刺激する濡れた音を立て、シドの冷えた唇が頬から首筋へと移動していく。 「なんだ、おまえ。走ってきたのか」 亮のひどく汗ばんだ肌を感じ取ったシドは目を細め、口元を緩めた。艶やかな肌にうっすらと浮かんだ絹のような雫を味わいながら、喉元をゆるりと舐め上げ、甘く歯を立てる。 そしてその手は再び亮のシャツの中へと潜り込んでいた。 「ぅぁ……、あ、この……っ」 ぞくりと身体を震わせ進入を阻もうとするが、亮の手には先ほどのような力もなく、まるでその先を煽るかのような艶やかな抵抗にしか成りえない。 「亮――、おまえが悪い――」 シドの唇が小さくそう呟いたが、亮にはその声は届かない。 シャツを大きく捲り上げられ、ついでに下肢を覆う半パンも下着ごと剥ぎ取られる。 寝巻き用のそれは拘束力も弱く、するりと簡単に抜き取られ、ベッドの向こうへと投げ捨てられていた。 外気に触れた下肢の涼しさに、亮はじたばたと今更ながらシーツを足先で乱す。 しかし上からシドの体重で馬乗りにされてしまった状態では、そんなバタ足ではどうにもならない。 「ゃ……、……に、すんだ、バカ、エロ外人!」 「部屋を荒らしたり、悪態をついたり……。おまけに俺の服まで脱がせてくれるとは、覚悟はできているんだろう」 上から押さえつけた亮をシドは見下ろすと、体をずらし、逃げようともがく亮の下肢を両腕でつかみ、引き寄せる。 「悪戯ばかりするガキにはお仕置きだな」 引き寄せられた両足は凄まじい膂力で開かれ、両膝をシーツへと押し付けられていた。 「っ、な……」 腰を浮かされシドの眼前に艶やかな白い尻を差し出した格好になってしまった亮は、己のあまりに恥ずかしい姿に言葉すら出てこない。 漆黒の瞳を見開き、怒りと羞恥で息を荒げた亮は、もがくことも一瞬忘れ、呆然とシドを見返していた。 シドはそんな亮の様子を見ぬ振りで、僅かに兆し始めていた亮の幼い裏側に舌先を這わせる。 しんなりと重力に引かれ腹の側に垂れる薄ピンクのそれに、シドの紅い舌が絡みつき、亮はその信じられない淫靡な映像にふるふると震える。 「ぁ……、ゃ……」 抵抗の意味を表す音を唇から零しながらも、力がどこにも入らない。 ただシドにされる行為の代償にひくんひくんと身体を強張らせるのが精一杯だ。 抵抗がなくなったことを見て取ると、シドは亮の片足を下ろし、それを自らの身体で押さえ込みながら再び幼いそこへ唇を寄せる。 先ほどのような苦しい体勢ではなくなったが、今度は目の前でシドの薄い唇が己の兆し始めているものを咥え込み、根元まで飲み込んでいくのを、亮は揺れる視界で眺めていた。 じゅぶりと音を立て吸い上げられると、今度はゆっくりと先端まで露出させ、月明かりにてらてらと輝くそぼ濡れたそれを見せ付けられる。 シドの綺麗な顔に悪戯されるそれがあまりに淫靡で、亮は視覚からも甘美な背徳感を与えられ、身震いした。 「嫌な割には元気がいいな、亮」 薄く現れた先端を舌先で弾かれ、亮のピンク色の茎がくんと跳ね上がった。 「ふぁ……っ、」 甘い声をあげかけるが、亮はそれをぐっとかみ殺し、シドの顔を睨みつける。 「そ……、れは、ぉまえが、ヘンなこと、するから――だろ……」 しかしシドは亮の強がりなどまるで聞こえないように皮肉な微笑を浮かべると、亮の幼い屹立を焦らすようにくちゅりくちゅりとこすり上げた。 「サカってるなら、素直に最初からそう言え。バカが」 「……っ、い、意味、わかんね、っ! そ、んな、ん……ちが……ぁ、ぁ、ゃめ――」 シドは唾液に光る亮のものを握りこみ、先端に指先をもぐりこませるようにぐりぐりと刺激する。 それと同時に片足を上にあげさせ、露わになった根元の可愛らしい袋を唇で包み込み、たっぷりと口中で転がした後、淡い蕾に尖らせた舌を渡らせて行く。 直接触れられる痛みと甘い痺れに、亮はびくんと腰を引き、堪えるように手元のシーツを握り締めた。 「ひぁっ……、ん、んん――」 淡い綻びをシドの舌先がつつく度、亮のつま先がぴくぴくと宙を掻く。 その子犬のような反応に含み笑いを漏らすと、シドはわざと亮に視線を合わせ、すべすべとした幼い性器に舌を這わせて見せた。 「――おまえ、これで本当に十六になったのか」 ことさら意地悪く口の端を上げるシドに、亮の頬は音に聞こえるほどかぁっと血を上らせる。 「こ、このっ――」 掴んでいたシーツを離し、上半身を泳がせるように足の間で揺れる煉瓦色の頭に掴みかかろうとする。 しかしシドに再び大きく腰を持ち上げられ、あえなく背中からベッドの上に沈没。 伸ばした両手も押さえ込まれ、今度は上から圧し掛かられてしまう。 「っ、バカシドっ、変態! サイアクっ!」 亮はじたばたと暴れてみるが、相手は朱の氷神と恐れられた元カラークラウンだ。羞恥と怒りに任せた子供攻撃など、まるで意味をなさない。 これといった反撃もできないまま、亮はあっさりと制圧されてしまう。 シドはついでに邪魔になった己のシャツを脱ぎ捨て、組み敷いた亮を上から眺めおろしていた。 亮の大きな丸い目には怒りの鋭さと快楽の艶めきが揺れていたが、怯えや哀しみの色は見られない。 瞳の中に微かに煙る欲情の色にさえ気づかなければ、まるで普段のソムニア訓練時と変わらない有様だ。 「……こんな色気がなかったか、おまえ」 「色気なんか、あるか、バカっ! 頭おかしーんじゃねっ!?」 息を荒げて噛み付く亮に、シドが口元を思わず緩ませる。 去年、死にたいという亮を無理やり抱いた時とも、ノック・バック時の治療の時とも、そしてセラ内で抱いたあの時とも明らかに違っている。 恐怖や戸惑い、哀しみばかりが強烈だった前者と、離れたくない、共にありたいという根源的な渇望を満たすための後者。そのどちらにもなかった感情が、今の亮には湧き出ているらしい。 それが『ゲボ』としての強烈な性的吸引能力を抑え込んで、純粋な『成坂 亮』そのものをシドの前に晒していた。 「これが『亮』か。――ただのクソガキだな」 だが言葉の冷たさとは裏腹に、呟いたシドの口元は緩んだままだ。 シドへのまっすぐな好意と欲望と本能が、怒りと羞恥の裏側に隠れようもない程溢れている。それが今、さすがのシドにもようやく分かったのだ。 呟いたシドの言葉をどう受け取ったのか、亮はますます憤慨した様子でいきり立つ。 「た、ただのクソガキに、こんなことするおまえは、もっともっとクソエロイギリス人だっっ!」 「そのクソエロイギリス人に悪さするガキは、クソエロいことされても文句は言えないな」 思いもよらない切り替えしをされ、亮はひるんだように口をつぐんだ。 シドはほくそえんだまま亮の唇に己の唇を重ねる。 唇を重ねながら、履きっぱなしだった靴を右、左と脱ぎ捨て、体重をかけなおすと口付けを深くしていく。 「ん――」 亮の唇を割りシドのひんやりとした舌が入り込んでくる。 舌を絡めとられ、上顎をくすぐられ、勝手気ままに己の中を動き回られる感覚に、亮はぞくりと身を竦ませた。 含みきれない唾液が口の端から零れ落ち、抑え込まれた両腕が苦しげに蠢く。 「っ、ふ――、ん――」 角度を変え、何度も長いキスをする。 亮がキスに弱いことをシドには知られてしまっている。 犬はドッグ。 猫はキャット。 亮はキスに弱い。 そのくらいのレベルで、シドはそのことを熟知していた。 |