■ 4-30 ■ |
乾燥機のやかましいドラム音に紛れ、話し声は密やかに続いていく。 久我はリネン室の奥の壁に寄りかかり、回る洗濯物を眺め、少し離れたパイプイスに座った亮はボロボロにふやけた古いジャンプをめくっている。どちらもお互いの顔を見ようとはしない。 「オレの見たのは、それで全部だ――」 染みだらけのマンガを眺めながら、亮は昨夜のセラで見た光景を一通り話し終わる。 久我は黙ってそれを聞いていたが、ここでようやく溜息混じりに亮へ視線を向ける。 「漢字書き取りみたいなわけのわからん数学テスト。生徒会室への呼び出し。佐薙、金原、醍醐に東雲先輩――。そして……、中にはたくさんの監禁ルーム。どれ一つとっても、俺の情報にはなかった新事実だな」 「おまえが今まで集めた情報ってのも教えろよ。そもそもなんでこの事件のこと知ったんだ?」 「まず俺が怪しんだのは――五月に入ってうちの学校の生徒が三人突然死してるってことだ。あれは絶対にソムニア絡みだと思った」 「ああ。オレもそれは思った。健康な人間が寝てる間に突然死って……どう考えても、なぁ」 「しかも三人の内二人は新館寮の生徒だ。だから最初俺はあの場所を怪しんだわけなんだが……。いくら調べても特に怪しいところが見つからねぇ。で、考えあぐねた挙げ句、次に注目したのが、死んだ三人ともけっこうな美形揃いだったっつー事実だ。男はともかく、女の子なんてかなり可愛くてさ。かなりもったいないっつーかなんつーか……」 「……んで? 結果なんなんだよ」 「あ、ああ。新館寮ってのは単なる偶然の一致で、俺としてはそっちの方が重要なんじゃないかって思ったわけだ。可愛い子ばっか狙われてるなら、今後狙われそうな可愛い子を調査すりゃいい。で、熱心な探求の結果、俺はついに三人ほどビンゴを引き当てた」 「おまえ、それ調査ってより趣味なんじゃないのか? ホントに当たりだったのかよ」 「失礼だな。俺の方向性に間違いはねぇっ。何しろ彼女たちは突然ヤバいバイトを始めるようになるんだからな」 「ヤバいバイトって……」 「端的に言えば……売春、だな。いわゆる援交斡旋組織に加わりやがったんだ。しかもその組織が学校直営とくれば、正気の沙汰じゃないだろ?」 「……マジ、かよ……」 亮の脳裏に昨夜セラで見た、異様な生徒会室の様子が思い浮かんでいた。 あそこで洗脳を施した生徒を、学校はいいように金儲けの道具として使っていたのだろうか。 「で、それでどうやって死人が出たんだ? 死ぬほどの援助交際ってよっぽどだぞ!?」 「っ、ま、まぁ、それは、あれだ。その辺はきっとなんか関係あるってことだけは確かだ。お、おまえの見た監禁ルームで洗脳段階でヤリ殺されちゃったとか……色々、あれなんだ、きっと」 亮の素朴な疑問に、久我は一瞬しどろもどろに取り繕うと、咳払いを一つ。――どうやらその辺りはまだ何も見えていないらしい。 「……洗脳段階で殺しちゃ、意味なくね? 一般人はそこまでしなくても簡単に洗脳されちゃうし……」 「だーかーらっ! それをこれからおまえと調査しようっつってんだろ!?」 「……うん、まぁ、そうか」 単純な亮があっさり丸め込まれ、久我はほっと息を吐く。なんとなく、亮にはかっこ悪いところは見せたくない。 「おまえが見た光景を検証してみるとだな――。まず、イミフなテストについては除外していいだろう。その辺はセラ特有の単なる不条理かもしれねーし、援交斡旋にはあんま関係なさそうだ」 「……なるほど。そう、かもな。うん……」 「問題は登場した人物。佐薙、金原、醍醐、東雲と生徒会室、だ。俺が援交メンバーの女の子たちから聞いた情報だと、最近生徒指導室に行く夢をよく見る――みたいなことを言ってから……てっきり、生徒指導部か風紀委員あたりが何かやらかしてると踏んでたんだが……」 「それこそ情報が漏れるのを防ぐために、女の子達へ偽の記憶を植え付けてたんじゃないのか? 俺が見たのは生徒会室、だ。……で、東雲先輩は副会長でもあるけど、ボランティア部の部長だろ? 金原もボランティア部の顧問だし、佐薙も醍醐もボランティア部の部員だ――」 「活動場所はセラでの生徒会室。中心はボランティア部、ってとこか。今成坂が確認できたのは、四人だけだが、まだ仲間がいる可能性もあるな……。もう少し突っ込んで調べる必要があるぞ、これは。連中の能力種や能力クラスも知っておかなきゃ危ねーし……」 「あ、それ、東雲先輩だけはわかってるぞ? あの人アンズーツ種だって」 「・・・・・・。」 亮の言葉に久我が固まる。 「……どうした? 久我」 応えが返ってこないのを不審に思い亮が顔を上げれば、久我はその垂れ気味の目を皿のように見開いて亮の顔を凝視していた。 「……ど、どうしたって、おま、それ、なんでもっと早く言わねーんだ!」 「あれ? 言ってなかったっけ?」 「聞いてねーよ! おまえわかって言ってんのか!? アンズーツだぞ!? 言霊使いなんだぞ!?」 「う、うん……。なんか、金原もそんなようなこと、言ってた……。そんな凄い種なのかよ、アンズーツって……」 「はぁ〜っ…………、これだから、覚醒したてのヒヨコちゃんは……」 派手に溜息を吐き、久我はがっくりとその場にしゃがみ込む。その様子に亮がムッと頬を膨らます。 「なんだよ、そういう言い方やめろよっ!」 「言いたくもなるさ。いいか。アンズーツってのはソムニア二十四種の中でも特級の超希少種だ。予言師のペルトゥロ種、言霊使いアンズーツ種、相続人オートゥハラ種――。この三つの種は歴史上でも数名しか発見されてなくて、現在アンズーツに至っては不在……つまり現在は世界に一人も生きてないとされているわけだ。それがこの学校に生きてますって……お前、今発表したわけだぞ? 驚きもするだろ」 「…………そう……なのか……」 「もちろんそれ以上に珍しい、二十五番目の種――ウィルド種……ってのもあるわけだが、これはもう『いるという伝説が残っている』程度のもんで、カッパだとかツチノコだとか、そういう伝説上の生き物と何ら変わんないからな。数に入れないのが最近の流れだ。よってソムニア二十四種の内、希少種と呼ばれるのは、ペルトゥロ、アンズーツ、オートゥハラ、ゲボ、の四種類ってことになる」 「へ……へぇ……、そう、なんだ……」 自分の知らない知識を披露する久我に、亮は少しばかり尊敬の念を込めた視線を送る。 やはり一度でも転生しているソムニアは、凄い、と思う。自分はまだまだ勉強不足だ。 「ついでに教えといてやると、だな。残る最後の希少種・生贄のゲボは、元々数自体は少なくなかったんだ。だが、中世から近世にかけての乱獲略奪行為で、絶滅に追いやられたらしい。今じゃ世界でたった七人にまで減ったと言われている。ま……その人数も本当かどうかはわかんねぇけどな。なにしろそいつら全員IICRが独り占めしちまってっから、真実を俺たちは知りようがねぇ」 「そ……そっか……」 久我の解説に複雑な思いが交錯し、亮は口ごもる。 「しかし……まだ信じられねぇが……、もし本当に東雲先輩がアンズーツなんだとしたら、厄介すぎるな……。アンズーツの言霊能力は強力な洗脳作用がある。通常、ソムニアは一般人みたいにセラで洗脳されることはないんだが、アンズーツなら話は別だ。能力値の強さ次第では、俺らだって簡単に丸め込まれちまう」 「多分、それ嘘じゃないと思うし……先輩の力、相当強いはずだ。東雲のアンズーツは強力すぎて掛けられた人間は、本人も気付かず人形そのものになっちまうって……金原が言ってたから。だからこそ援交組織に入れられた子たちは、絶対に組織の秘密を漏らすことがなかったんじゃないのか?」 「おまえ……、それでよく無事に戻って来られたな。それとも……今の情報も東雲に操られてテキトー言ってんじゃねぇのか!?」 「そんなわけないだろっ! もしそうなら東雲先輩がアンズーツなんて情報出すわけねーしっ」 「…………なるほど。言われてみればそうか。……いかん、卵が先か鶏が先か、みたいで頭がおかしくなりそうだ」 「お……オレの場合は、きっとたまたま掛かりが弱かっただけなんだよっ」 自分が助かったのはゲボ能力の「他者の力を打ち消す」部分が働いたのだろうと予想は付いたが、それを久我に打ち明けるわけにはいかない。 「そっか……。まぁ、なんだ……、ホント、良かった」 何を思いだしたのか、久我は不意に口ごもると下を向き、人差し指でカリカリとおでこを掻く。 亮もこの何となく落ち着かない空気を感じ取り、視線を意味なく洗濯機の方へ流しながら「……ぉぅ」と小さな声で返事を返していた。 「……なりさか……。あ、あのさ……」 「ん?」 「…………おまえ、さ……」 「うん」 「…………っ、や、あ、そ、そうだ。とっ、……取り敢えず、今後の作戦としてはだなっ。もうセラで囮になるのはやめよう。東雲がアンズーツならセラでの接触は危険すぎる。まだリアルなら能力もセーブされるだろうし」 何かを言いかけ思いとどまった久我は、それを誤魔化すように仕事について捲し立てる。 「つまりリアルで東雲先輩に近づくってことか?」 「そうだな。いっそボランティア部に入っちまうとか、どうだろう。明日にでも一緒に入部届出して……」 「久我はダメだ。入るのはオレ一人にする。おまえは入らない方がいい」 「はぁ? なんでだよ。二人の方がなんかあったとき心強いだろうが」 「ダメだっ。……だって、二人とも捕まったら終わりだぞ? だからお前は東雲先輩に見つからないように影にいて、オレがやばくなったら助けに来てくれよ」 「……なるほど。バックアップ要員ってことか。……しかし、覚醒したばっかのお前一人で内部調査なんて、ちょっと心配だな……」 「……おまえがオレの心配するなんて、変なの。オレを援交組織にぶち込もうとしてたのはおまえなんだぞ?」 「っ、そっ、それはっ!! わ、悪かったと思ってるよ。ホント、マジ、……」 「わかってる。あははは、ちょっとしたフクシュウで意地悪言ってみた。そんじゃ、計画がんばろーぜ」 亮は珍しく楽しそうに笑うとジャンプを置き、リネン室を出て行く。 久我はその後ろ姿を眺め、 「なにちょっと悪い顔で笑ってんだよ。……くそっ、可愛いじゃねーか……っ」 妙に胸を高鳴らせていた。 ごろんと寝返りを打つ。 枕元の目覚まし時計を見れば、もう深夜二時を回っていた。 常夜灯の灯る室内は静かに夜に沈み、廊下から聞こえる自販機のモーター音がうるさいくらいだ。 (眠れねぇ……) 深夜零時に床についた久我は二時間もの間、ごろごろとベッドのマットレスを自らの身体でローラーし続ける作業に没頭している。 壁にされているカラーボックスの向こう側で、亮が寝ている――。 そんないつも当たり前だったことが、今は久我を寝かしてくれない。 (……体育の金原かぁ……。あんのエロ変態教師っ!) 昼間リネン室で聞いたセラ内での出来事。 亮は監禁ルームで久我も良く知る体育教師に、悪戯されたのだ。 亮本人は「シャツの上から触られたり、足舐められたりしただけで逃げてきた」とは言っていたが、それにしても久我には許せないことのように思える。 (そういやあいつ、授業中成坂ばっか見てた気がすんな……。最初からそういう目で見てたってことか。っ、ド変態がっ、許せねぇっっ!!) あの雄臭い三十路男が身動きできない亮の身体を好きにする映像が脳裏に浮かび、久我はまたもベッドの上をゴロゴロ二報復ほどしてしまう。 (でも……そしたら、あれ……。あのキスマークつけた奴は、誰なんだ? ……結局、今日は聞けなかった……) 久我の見た亮の身体には、際どいところへいくつも朱い痕がつけられていた。 てっきりあれはセラで援交組織の連中につけられたものだとばかり思っていたのに、今日聞いた話ではそれはないということだった。それで思い当たるのが―― (……シド。……シドってなんだ。……ドレミファソラシド。シド・ヴィシャス。……やっぱシドって、誰かの名前、だよな……) 昨夜亮が、久我にすがりつき何度も唱えた名前。あの名前の呼び方は、まるで…… (恋人とか、好きな奴を呼んでるみたいな……) 「っ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」 思わず枕を頭から被り、身もだえる。 (いやっ。いやいやいやいやいやいやっ! まだ、そうと決まったわけじゃねぇっ!) そこまで考えて天井へひっくり返り、ぶはっと息を吐く。 (けど成坂……、すげぇ……キス、うまかった……よなぁ……。あんななんも知らなさそうな顔して、ちっちゃくてやらけぇ舌、いっぱい絡めて来てさぁ……。俺を誘う仕草なんて、も……、殺人級で……、ぅっ、ゃば、……落ち着け。落ち着け、俺) 思い出すだけで身体が熱くなり、久我は喉の渇きを感じてしまう。 (成坂、もしかして……、誰かとすんの、初めてじゃ……なかった、とか? あんな、あんなガキみてぇなのに、もうお姉ちゃんとやりまくり? …………いや) 久我の脳裏にまたあの名が浮かぶ。 (……シドって、男の……名前だ……) 頭の中がぐらぐらする。 昨日の亮の様子を総合的に考えれば、 ・成坂は妙に慣れてて、キスもエロうまい。=初めてじゃない。 ・シドという名前を連呼。=相手はシドって奴。 ・体中にキスマーク。=相手はシドって奴。 ・そしてシドと言う名前は一般的に……男。 「ぅ。っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」 導き出した結論に、久我は再び枕をかぶって沈黙のバタ足に入る。 (成坂、可愛いもんなぁっ。完全ヘテロの俺ですらちょっといいなぁ、なんて思っちゃうもんなぁっ。全然本気ではないけど、まぁ、なんとなくだけど、でも、そっかぁ、くっそ、シド! シド! シド! この変態ホモ野郎っ、成坂になにしたんだ、なにしてくれちゃってんだっ、シドって誰だああああぁぁぁああっ!!) 血管ブチギレそうなまでに、久我は心の中で絶叫した。 別に昨日のことは事故みたいなもんで、自分は女の子が好きだし、あれは辛そうだった成坂を介抱してやっただけだし、そもそも男に興味なんかないからシドなんて奴がどうとか別にどうでもいいし――と、何度も同じようなことを脳内で唱えてはみるのだが、いっこうに鼻息が収まらない。 (くっそ、いかあぁぁぁああああんっ! 俺は……俺は……エロくはあるが、変態じゃねぇぇええええっ!! なのに……。なのに、なんでこんな眠れねぇんだっっ) と――。 仰向けで枕を被った久我の腕に、ふと、誰かが触れた。 「……久我。起きてる?」 「っ!!!!!!」 その声にびくんと反応し、久我はそろそろと枕の下から顔を覗かせる。 「……なり、さか」 そこにはTシャツ短パンの亮が、首を傾げるように佇んでいた。 「ど……どうした? なんか、あったか。具合、悪い?」 亮はふるふると首を振る。 「なんか……、眠れなくて、さ」 「あ、ああ。そっか。……俺も眠れねぇんだ。あ、暑いからかな、この部屋」 久我は身を起こすと窓を開けようと手を伸ばした。と、亮がその手を差し戻すようにつかみ、二人はもつれ合うようにベッドの上へと投げ出される。 「っ、て……、こら、なにすん……、な、なりさ、か……」 久我のすぐ目の前に亮の顔があった。 まるで久我を押し倒すように、亮は久我に馬乗りになっていた。 ドキン、と一つ、久我の鼓動が大きく高鳴った。 「久我……、オレ、……ォレ、おかしい、んだよ……」 泣きそうな――だが、切羽詰まった熱を持った声音で、ルームメイトが訴える。 「きのーの、こと、考えると……、なんか、オレ、むね、ドキドキして、身体、熱くて、へん、なる……」 息が掛かりそうな位置で、亮のしっとりとした唇が切ない言葉を紡ぎ、その舌使いすら見えてしまい――、久我は生唾を飲み込んでいた。 「だって、おまぇ、もう、あんなこと、しねぇって……」 それでも掠れた声でそう言ってみた。 だがもう久我の目は亮の揺れる黒い瞳から外せない。 「そうだけど……。そうだけど……。でも、ォレ、も、がまん……できない……」 そろそろと亮の顔が降りてきて、柔らかな温かいものが久我の唇を覆う。 「っ!……」 小さな舌が潜り込んで来ると、大胆に久我の舌を絡め取り吸い上げる。 甘い唾液――。ちゅぷくちゅ……と、濡れた音が薄暗い室内を埋めていき、久我は夢中で亮の頭を掻き抱く。 成坂亮に押し倒され、強引にキスされている――。その甘く痺れる感覚は、あっという間に久我の理性を吹き飛ばしていた。 身体を反転させ亮の身体をベッドへ押しつけると、噛みつくようにキスをする。 「っふ……、成坂……、いいのか? 俺はシドって名前じゃねーぜ?」 「も、シドなんて、呼びたくないんだ……。もう、嫌なんだよっ。……あいつオレに無理矢理酷いこと、して……、まだ子供だったオレを、こんなエロい子にして……、こんなの、ホントは嫌、なのに……」 「成坂……、おまえ……」 「くがぁ……、オレ、おかしい、よな? 気持ち、悪いよな? こんなルームメイト、迷惑、だよな? ごめん……、ごめ……」 ぽろぽろとこぼれた涙を止めるように、久我は再び亮の唇を塞ぐ。 「ん……、っ、……ぅ……、くが……」 「そうだ。もうあいつの名を呼ぶな。俺の名前だけ呼んでろ。……っ」 角度を変えて何度も口づけ、その手は焦り気味に亮のTシャツをまくり上げる。 久我の視界に昨夜と同じ朱い痕が飛び込んできた。 「っ……、くそっ。こんな痕、消してやる……。俺が、全部消してやるからな、成坂っ」 胸の横についた朱い刻印に舌を這わせ、久我は食い破るほどに吸い上げる。 「つっ……」 「わ、悪りぃ、痛かったか」 「ううん。いいんだ……。全部、久我のに、して? オレの全部を、久我のに……」 その言葉に久我の精神が振り切れる。 ――オレの全部を久我のにして。 そうだ。そう、成坂に言われたかったんだと改めて悟る。 「成坂……!」 久我の手が乱暴に亮の下肢を覆うものを取り去り、現れたフルーツのような幼い性器に舌を這わせる。 「ん……」 その突然の刺激に、怯えたように亮の腰が引かれるが、久我はそれを押さえ込み、音を立てるほどに激しく亮の白いそれを吸い上げていた。 「っひぁ……っ」 びくんと亮が身体を硬くする。 兆し始めたばかりのまだ柔らかな性器を、丹念にくすぐるように舌でしごいてやると、亮は身体を震わせ、何かを堪えるように久我の髪へ手を絡める。 「んぁっ……、くが、だめ……、そんな……、音、たててあそこ吸うの、エロいよぉ……」 「エロいことしてんだから、当たり前だろ。……っ、ほら……、成坂のここ、すっげぇ元気になってきたぜ?」 久我は亮に見せつけるように、反り返った幼い先端をクンと舌先で弾いて見せた。 ぴくんと亮が腰を揺らす。 「ゃぁっ……! も、久我、サイアク……」 朱く染まった頬で、恨みがましく眺めてくる亮の様子は、色香が雫となって滴り落ちている。 久我は無意識に己の唇をぺろりとやると、亮の足を抱え上げ、亮の顔をじっと見つめたまま、右手でゆっくりと亮の幼いそれを扱き上げ始めていた。 ベッドに上半身埋もれた亮は、すぐそばにある久我の視線から逃れることができず、羞恥に頬を染めたまま顔を逸らす。 「見るな、よ……」 「なんで? 成坂の気持ちいい顔、見たい……」 「そんなの見て、どーすんだよっ、っ、ぁ……、ゃ、はずかしぃょぉ……、っ、ん、だめ……、ぅぁ……、見んな、よぉぉっっ……」 くちゅくちょと、濡れた音があがり始め、亮はますますいたたまれなくなったように左右に首を振る。 快楽を我慢しようとすればするほど歯止めが利かなくなるようで、亮はその口から普段からは考えられないような、可愛らしい鳴き声を上げ始めていた。 「ぁっ、あ、ぁ、っ、んんんっ」 「すげぇ……くちゅくちゅいってるな、成坂のここ」 「っ、はっ、……、言うな、よ、バカ、ぁっ、ぁっ、だめっ、だめ、だめ、くが、も、だめぇっ! っ、ぁ、ぁ、ぁん、ぁんっ、ぁっ、だめ、ぁっ、ふぁぁあああんっっ」 久我の手の動きが速まり、亮は耐えきれず自らも腰を揺らすと、あっという間に達してしまう。 久我の手の中で幼いものがトクトクと脈打ち、先端から白濁した液を何度も吹き上げる。 苦しげに寄せられた眉。開かれた唇の奥から、水でも欲しがるように、小さな紅い舌が扇情的に突き出され――。久我の下で少年は、虚ろな目で天井を仰いだまま、ひくんひくんと身体を小さく痙攣させていた。 「……っ」 あまりのいやらしさに、久我は息を呑んだまましばらくその絵を眺め続ける。 普段は悪態ばかり吐くクラスメート。それが久我の手でいかされ、醜態を晒しながら無防備に身体を投げ出している。 「……、っ……」 言葉をかける余裕もなく、久我は亮の唇を貪ると、亮の迸りでべっとりと濡れた指先を、亮の秘部へと潜り込ませていく。 「……っ、……ん……」 唇を久我の舌で塞がれたまま、その刺激に亮は身もだえした。 「ふ……、成坂ん、中、熱いな……。熱くて動いてて、エロ過ぎ……」 「ば……、んで……、そゆこと、言うんだよ……、サイアクっ……、ふぁっ、ん、ん、そこ、だめ……つついちゃ、だめ……」 久我の指先が亮の前立腺の辺りを何度も引っ掻いていた。 その度に面白いほど亮の身体が跳ねる。 「ここ、気持ちいいみたいだな」 「ちが……、そんなこと、な……ひぁんっ!」 「ひひ、おまえ、わかりやす過ぎんだよ……」 「っ、う、うっさい、ばかっ……」 頬を膨らませむくれてみせる亮に、久我は小さくキスすると、指を二本、三本と増やしていく。 「っう……、ん……、くがぁ、きつ……」 苦しげに呻く亮の気を逸らすように、久我は顔をスライドさせ、小さな胸の尖りを口に含む。 触れていないにもかかわらず、既に亮のそこは硬く勃起し、久我が舌先を動かす度にコリコリと方向を変えた。 「ぁ……、ぁ……、っん……、」 すぐに亮は意識を持って行かれ、快楽による声を抑えるように息を詰める。 亮が胸を弄られることに弱いのは、昨夜の内に判明済みだ。 「成坂、こうされるの好きだよなぁ……」 ちゅっと音を立て吸い上げ、今度は前歯で甘噛みする。 「ぃぅっ! ……、べ、別に、すきじゃ、な……ぁぅんっ、……、」 「でも成坂の乳首、ぴんぴんに勃ってるぜ?」 「そんなこと、なぃ……、ぁ、ぁ、だめ、コリコリ、だめ……っ、ゃぁんっ……」 もう片方も残った手でつまみ上げられ、亮は女の子のような甘い声をあげて腰を揺する。 後ろを抜き差しされながら二つの胸飾りを悪戯されて、次第に亮の理性も臨海を突破しようとしていた。 「久我っ、くがぁっ、熱……、ォレ、身体、変……っ、あそこ、触られてない、のに……、ビクビクってしちゃ……」 「んっ……は……、も、俺も限界……。入れるぞ?」 「うん……っ、ぃぃ、ょ。……、ォレん、中、全部……、久我に、して?」 「成坂――っ」 指を抜き去ると、久我は亮の腰を引き寄せ、反り返り脈打つ己のものを亮の中へと埋めていく。 「ぅ――……っ」 熱い肉の壁が久我を包み込み、歯が浮くような愉絶が下肢から脳へと直撃する。 久我は声を噛み殺し、せまくて柔らかい亮の中を一気に貫いていた。 「ぃぅっ!!」 痛みと衝撃に亮は唇を噛みしめ声を殺す。 久我の質量に、亮の細いからだがぶるぶると震えていた。 「成坂……、全部、……入ったぞ」 震える亮の身体を抱きしめるように屈み込み、久我は自身も震える声でどうにかそれを伝える。 ぎゅっと閉じられていた亮の黒い瞳が開かれ、眩しそうに細められる。 「そ……か。……これで、ォレ、もぅ、くがの?」 ドキンと、久我の胸が高鳴った。 「ああ。……でもまだ、これから……、もっともっと俺で満たしてやる。おまえの傷が全部消えるまで、何回でも、何千回でも、何万回でも……」 亮の瞳が閉じられ、下からねだるようにキスをされる。 久我はそれを優しく受け止め、ゆっくりと亮の中で動き始める。 「……っ、ん、ぁ……、っ、ぁっ、……くがの…こすれ……」 「痛かったら言えよ、成坂……」 「ん……、平気……。ォレ、がまん、でき……、っ、ぃぁっ、ん、っ、ひぁっ!」 痛かったら言え――とは言ってはみたが、久我には止まることなど出来そうになかった。 亮の内側は熱く蠢き絡みついて、容赦なく久我を絞り上げる。 あまりの気持ちよさにすぐにでも達してしまいそうで、久我は歯を食いしばって亮の奥を突き上げた。 「ぁっ、ぁっ、んんっ、くが、ぉく、ォレ、奥っ、ひゃぅっ!」 亮が声すら殺せず、嬌声を漏らし始めていた。 自分の下で乱れる少年を眺めおろし、ぞくぞくと興奮が久我を襲う。 (……俺は、成坂とヤってる……) あの無愛想ですぐに噛みついてくるルームメイトと、合意の元でセックスしているのだ。 自分が突っ込む度、亮は普段からは考えられない甘い声を上げ、嫌らしく腰を揺すり立てる。 「成坂っ、なり、さか……、っ、すげ、いい……、おまえん中、熱くて……とけ……る……」 「ぁぅっ、ん、くが、の、つめた……、ォレ、こおっちゃ……っ、ぁっ、ぁっ、どこ、くがぁっ、」 亮の手が久我を探すように宙を泳ぎ、久我はその手を己の首に絡ませてやると、亮の身体を折り曲げ、さらに深く穿っていく。 「っ、ひぃんっ!」 喉を引き攣らせ、一度亮は達してしまっていた。 反り返った幼いものからミルクが何度も吹き出し、腰を上げた体勢のせいで、自らの薄い腹へ白い水たまりを作っていく。 びくびくと身体が揺れ、それと呼応するように、亮の内部が久我を不規則に締め上げる。 この見たこともないエロい光景――。 この感じたこともない至極の快楽――。 久我は酸欠のように呼吸を速め、ただ乱暴に、単純に、亮の奥を犯していくしかなくなっていた。 久我の先走りでグジュクチュと耳を覆いたくなるような水音が鳴り、二人の荒い呼吸音と相まって寮の部屋はいつもと違う濃密な匂いが立ちこめていく。 「ん、っ、ぁ……、ぁっ、もぅ……、、ォレ、らめ、っ、んっ、ひぁっ……、ぁっ……、また、レちゃぅ……、レちゃうっ……、はっ、ぁっ、ぁっ、ぁっ、」 絶頂にぐったりとしていた亮は、その容赦ない責めに再び甘い声を上げ、久我の動きに合わせて腰を揺すり始めていた。 その痴態に久我は渇いた喉を鳴らす。 「出せ……よ……、もっとおまえのエロいセーエキ、いっぱい、出して見せろって……」 「っ、ひぅんっ、ぁっ、ぁ、あ、くが、……っ、くが、の、しゅご……、しゅごいぃ……、っ、ォレなか、ずんずん、なって、いぱい、とおぅ、みぅく、レちゃうよぉぉっ」 「っ……く……、なりさ……か……。俺、のも……、飲ませて、やる……からな……、っ、俺の、精液、おまえん中に……注いで……、」 久我が亮の身体を抱きしめ、ぐっと深く腰を突き出していた。 びくんびくんと腰が揺れ、内部で己のものが喘ぐように大きく脈打ったのがわかった。 「ひぅっ!! っ、くが、くがの、ドクンドクンって……、ぁっっ、ィくっ……、ふぁぁぁあああああああっ!!」 「ぅっ、ぉ……、くぉぉぉっ、!!」 亮が絶頂を向かえ、淡い白濁を吹き上げると同時に、久我の歯間から獣じみた声が漏れ、熱い迸りを亮の中に叩き付ける。 びゅくびゅくとバカみたいに何度も精が吹き出し、久我はあまりの快感に恍惚と腰を揺すり続けた。 どのくらいそうしていただろう――。 ようやく動きを止め、久我は自分の下でぐったりしている亮に目を落とす。 「っ、……、な、りさか……、好き……、だ……。なりさ、か……」 亮に入れたまま、久我は放心した亮の頬を撫で、汗に張り付いた前髪をよけてやる。 荒い息でぼんやりとしていた亮は、その指先に小さく微笑むと、萎えた手で久我の背に手を回した。 「ォレ、も……、久我が、好き。……オレん中、久我で、いっぱい……に、なった、よ?」 愛しさで頭がおかしくなりそうだった。 久我は亮を抱きしめると、また、深くキスをする。 亮とのセックスは最高だが、それ以上に、久我は亮とのキスが好きなのかも知れないと、そう思った。 「……りさか……、こら、だめだって……、そんなとこ、舐めたら、また……、ヤっちまう、ぞ……?」 「・・・・・・? こいつマヌケな顔して、何の夢見てんだ?」 朝食の時間になり起き出してきた亮は、何やらぶつぶつ隣のベッドから聞こえる寝言に、胡散臭げに眉を寄せ、覗き込んでいた。 ルームメイトの久我貴之はしまりのない顔で布団にしがみつき、もぞもぞと身体を動かしている。 「・・・・・・なんか、幸せそうだな」 あまりに幸福そうなその顔に、亮は起こすのも可哀想になり、そのまま一人で食堂へ降りていく。 そして――朝食を終え亮が部屋へ戻った頃、久我は朝っぱらからリネン室で洗濯機を回していた。 |