■ 5-17 ■ |
オレはぼんやりしたまま側の体温へすがりついていた。 ひんやりしていて気持ちいい。 少し煙たい、よく知った匂い。 その体温の元を確かめようと名前を呼んでみる。 そうすると耳元で聞こえていたゆったりとした心臓の音に混じり、低くて突っ慳貪で──でも少しだけ優しい声が響く。 「ん。」 どうした?と聞いてきたみたいなその声に、オレは顔を上げてみた。 朱い髪が黄色のランプの光に縁取られて、いつもよりオレンジ色に見える。 だからオレはそれに手を伸ばし触ってみた。 少し堅くてさらさらしてて、いつもと同じ手触り。 「シド……だ」 と言うと、シドは目を細めてオレの髪を撫でる。 「亮、気分が悪いとかどこか痛むとかはないか?」 ふと、横から女の人の声が聞こえた。 誰の声だっけ? と首をひねる。 背中を撫でる優しい手は温かくて知っている感じがする。この手に撫でられたのはいつだったかなと思い出してみるけど、でもよくわからない。 振り返るとそこには、長い髪の綺麗な女の人がいた。 えーと、プラム様だ。 「大丈夫……です」 痛くはない。気分もボーッとしているけど普通。 ただ、身体の中からずっと色取り取りの音楽が聞こえているような気がするんだけど、それも気のせいかもしれない。 プラム様はオレの右腕を取っていて、ゴム管をほどいたり脈をはかったり忙しそうだ。 「そうか。うん。アルマの状態は安定しているようだ。背の蒼い発光跡も温度は高くはないし、体温そのものの上昇も見られない。ハイキューブの残存数値がゼロになっているのは驚いたが、痛みがないのなら逆に良いことだ」 良いことなのか。 プラム様がそう言うなら、良かったな。 伸ばされていた腕をたたんで、オレはまた気持ちの良い体温へ身を預けた。 ──と、オレはこの場所に居るのがシドと自分だけじゃないんだとふと思いつく。だってプラム様が側にいる。 ここはどこで、これはどうなってんだろう? という疑問に答えてもらうべくもう一度シドを見上げてみる。 そんなオレの目を見たシドは答えてくれる代わりに、オレのほっぺを手のひらで包んで、その後顔を降らせてきた。 前髪と、次に目蓋へひんやりした唇が触れる。 そしてそのまま抱き寄せられてしまう。 隣にプラム様が居るのに。 プラム様が居るのに、シドにキスされたり抱っこされたりとか、今、オレはされているんだ。 なんかモーレツに恥ずかしくなってきて、オレは身体を離そうとシドの胸に手を置いて身体を突っ張らせてみた。 「なんだどうした」 けどそんな風にシドは言って、ますますオレを抱きしめ、すっぽり腕の中に収めてしまう。 「も、いい。大丈夫……」 「Si……、まだ大人しくしていろ」 耳元で囁かれ、長い指が髪の中に差し込まれて柔らかく頭を撫でられる。 ぞくぞくとした切ない感触が背中をのぼり、オレは急に焦りだした。 なんとかシドの腕から這い出そうと腕を突っ張り、身体をよじる。 「残念だったなヴェルミリオ。ぼっちゃんは完全にお目覚めのようだ」 横合いからからかうみたいなプラム様の声が聞こえ、やっとオレは心地の良い体温から解放される。 包み込んでいた大きな影から身を出して、オレは辺りを見回した。 ほんのりと薄暗いランプに照らされた部屋には、知っている人、知らない人、何人もいる。 すぐ横にはプラム様。 反対側の椅子にはどこかで知っているような男の子が座っていて、こちらを心配そうに眺めている。 そしてその子の後ろには、不機嫌そうな顔でこちらを見下ろす綺麗な男の人が、腕を組んで立っていた。 「具合はどうだ。背中の痛みは?」 みんなオレを見てる。 それなのにシドはまたオレのことをぎゅっとして、背中にするする手を這わせてきて──、耳まで熱くなったオレは思わず目の前のシャツに包まれた広い胸をげんこつでぼかすか殴っていた。 「も、くっつくなって」 足も動かし、這うようにしてとにかくこのスペースから抜け出す。 四つんばいでベッドの上を移動すれば、あれ?背中が変な感じするなーって気がついた。 痛いとか重いとかじゃなくて、何か「ある」感覚。 なんだろうと思って首を巡らせオレは自分の背中をのぞき見た。 で──そこにあったのは。 「…………なに、これ」 白くてふさふさしたもの。 よくドンキとかのパーティーコーナーで売られてる天使の羽根みたいなヤツなんだけど、あんなふうにおもちゃっぽくはない。 なんていうか、つやつやしててぼんやり白く光ってさえいる。光の毛でできてるみたいな感じで、形も美術の教科書とかに出てくる絵に描かれてそうな、ようするに本物っぽい羽根だ。 なんでこんなのが背中に付いてるんだろう? また、秋人さんかレオン先生がいたずらしたかぁ? 大人なのにやることは子供みたいな二人だし。 でもこういうことを知らない人たちの前でやるのは本気で止めて欲しいと思う。 オレは恥ずかしさでちょっと不機嫌になりながら、その羽根を放り捨てようと掴んで引っ張っていた。 けど、その羽根は取れることなくぐいーんと伸びただけで終わる。 どうやったらこんな上手にくっつくんだ! オレはイライラしながら何度も引っ張って、そいつを取ろうと羽根をばさばさ何度も羽ばたかせた。 でも全然それはオレの背中から取れる気配を見せない。 ……っていうか、羽根を、バサバサ? 「………………動いた」 確かに、背中のこれ、動いてる。 背中に意識を向ければ、オレの感覚に合わせて小さな羽根は鳥みたいにパタパタと動く。 これは、いったいどういうことなんだ!? 胸の奥に急に冷たい水がわき出たみたいになって、オレは一瞬動きを止めた。 何がどうなっているのか全然わからない。 とにかくこのわけのわからないものを取り外そうと、白い羽根をひっつかむ。 引っ張っても全然取れない。 それならもう何でも良いから引きちぎってやろうと暴れ出し、十秒も経たないうちに、オレはまたシドの腕の中に連れ戻される羽目になった。 亮を落ち着かせ、周りの大人達が状況を話して聞かせるのに一時間近くを要した。 その間暴れる亮を腕の中に閉じこめ続けたシドだが、とにかく元気に動きまくる亮に困ったものだと思いつつも思わず口元が緩んでしまう。 ほんの数時間前までの死に直結した病状が、今や微塵も見受けられない。 憎まれ口を叩きながら逆ギレしてくる様は本来の亮そのもので、意識の混濁も最早完全に払拭されているようだ。 胸にパンチを繰り出す手を受け止め、顎先を突き上げようとする掌底をかわし、押し倒すようにベッドへ押さえ込んで顔を覗き込めば、興奮のためか羞恥のためか頬を真っ赤に染め上げ涙目で睨み上げてくる。 そんな顔を見ているとここがIICRの研究棟であり、今もまだ切迫した状況であることを失念してしまいそうになる。 自分のアルマの形態変化にパニックを起こしていた亮も、リモーネの落ち着いた声音や途中から戻ってきた有伶の状況解説により徐々に落ち着きを取り戻し、今はようやく大人しくベッドの隅でタオルケットを抱えたままうずくまるにまで至っている。 「だからね、大変だとは思うけど、これから僕たちも全力を尽くすから、亮くんも一緒に身体を治すことを第一に考えて欲しいんだ」 有伶は己の役職と立場を伝え簡単な自己紹介を終えた後、かみ砕いた言葉で亮へ解説をしそのように何度も理解を求める。 傍らではリモーネが母親のような慈愛に満ちた目で亮を見つめ、ベルカーノを淡く乗せているであろう指先で亮の背をゆっくりと撫でていた。 亮はそれでようやく顔を上げ、小さく頷いて「うん。……はい。わかりました……」と一言呟く。 身体の変化だけでなく自分がいつのまにかIICRに戻され、以前のような悪夢のただ中に放り込まれた感覚が亮の中には生まれているに違いない。 それでも静かに状況を受け入れられたのは、ここ一年により成長した亮の精神面の強さがなせる技なのかもしれない。 「心配することは何もない。俺も今はそばにいる」 髪を撫でそっと抱き寄せてやれば、生意気にも両手でこちらを押し返し亮は拒絶の反応を見せる。 どうやらシドにだけは大人しく愛撫させない方針のようだ。 こちらを押し返す細い指先まで赤に染まっているところを見ると、人前でのスキンシップが本気で恥ずかしいらしい。 「もうやめてあげなよ、シドさん。亮くん真っ赤じゃない」 見かねたらしい有伶が苦笑混じりに言うが、シドにそれを聞く義務はない。 構わずベッドに乗り上げ亮を抱き込むと、さすがに諦めたのか亮は「も、うぜぇ」などと呟きながらも額をシドの胸に押しつけて動かなくなった。 亮の髪に鼻先を埋めればふわりと甘い亮の香りがして、シドは少し目を伏せた。 こうして居られる時間ももうわずかだ。 先ほどからしつこく携帯のコールが掛かり続けている。たとえリアルとセラ間の時間に大きな流れの差があるとはいっても、無視し続けられるのにも限度がある。 業務の合間にほんの十分、十五分の隙を見てここへ潜ってきたが、セラ・テロ対策特別局の仕事は待ったなしの状況だ。 急遽寄せ集められた局のチームワークは推して知るべしだし、その人選にも問題が多い。そんな中にあって内容は死と隣り合わせの激務と来ている。 チームの副官であるキースにある程度任せはしてきたが、作戦完遂には指揮官がいなくてはどうにもならないのは自明の理だ。 預かったチームをむざむざ危険に晒す趣味はもちろんシドにはない。 だが、それでもシドはコールを取る気になれない。 なぜなら── 「気持ちはわかるけど、電話取った方がいいんじゃない? さっきの事故の件は研究局トップとして僕がなんとかいなすからさ」 有伶の言葉通り、今亮はおそろしく危うい立場になってしまっている。 IICRの中枢で暴走し、何人も人を殺めたのだ。 極秘裏に運び込まれ存在自体を秘されている亮だが、それでもトップがこれを危険と判断すればたちまちその身柄は拘束され、シドの手の届かぬ場所へ再び連れ去られてしまうだろう。ここはそういう場所だ。 その後すぐの対応で有伶が研究局局長として迅速な処理を行ったため、今はとりあえずの小康状態を保ってはいる。 しかしもし、この腕の中に確かにいる温もりが消え去ったとしたら──、そう考えるだけで全身が冷え固まって身動きが取れなくなる。 それでも職務を放棄することは出来ない。 カラークラウンとなった今、シドの身体はシドだけのものではない。己の挙動によりイザのファミリー全体に影響が及ぶ。 シドがクラウン再襲名を頑なに拒んできたのはそういうことだからだ。 そして何より亮の治療の条件はクラウンの襲名とIICRでの職務遂行。これが絶対だとビアンコは言った。 シドが職務放棄をしたとき、亮は謎の病を抱えたまま放り出されることになる。 亮の病状は特殊に過ぎ、IICR以外でそれを解明できる機関など存在しないだろうこともシドにはよくわかっていた。 つまり、八方ふさがりなのだ。 亮を守るためにシドは亮の側にいられない。己の力ではどうにもならないジレンマに無様なうめき声すら漏れそうになる。 「シド、仕事なんだろ? 電話、出ろよ」 腕の中でもぞもぞと動いた亮が下からシドを見上げていた。 不機嫌そうに唇を尖らせてはいるが、その目は真剣そのものだ。 「……おまえが気に掛けることではない」 「んだよ、それ。むかつく。病人にはもっと優しくしろよなっ」 両手をシドの方へと伸ばし、シドの両頬をつまもうとする亮の攻撃をそのまま甘んじて受けてやれば、亮の丸い瞳が細められ嬉しそうに笑う。 「変な顔」 そのまま顔を近づけ唇に口づけを落とす。 不意打ちとも言うべきシドの反撃に、亮は怒りも顕わにシドの顔を押し返していた。 「ば、ばっかじゃね、エロシドバカシドっ、さっさと仕事戻れよ! ……こんなのいつもとかわんないって。俺のことは心配いらねーし、帰りにコーラ買ってきてくれよなっ」 不安を押し殺して憎まれ口を叩いているのが見え見えで、胸の奥から瑞々しい感情が溢れて止まらなくなる。 シドはもう一度亮の身体を抱きしめた。 「どうだろう、シド。亮を一度リアルへ戻そうと思うのだが。アルマの状態が安定している今だからこそ、肉体と一度同期させた方が良いというのが一番の理由なのだが──」 隣でその光景を眺めていたリモーネが不意にそう提案をしてきた。向かいの有伶も膝を打ってそれに同意する。 「そうか。僕が言うのも情けないけど、セブンスに戻ればここよりさらに安全だもんね。あそこは特殊で権限は全て現在のゲボ・クラウン、プラチナが握ってる。警察局の人間はもちろん、ヴァーテクスだっておいそれと入り込めないはずだ」 リアルに戻す──。 確かにセブンスならば亮の身柄の安全は図れるかもしれない。 だが──。 「……セブンスなんて、な、慣れてるし。全然だいじょぶ、だっ」 セブンスという言葉だけで腕の中の小さな身体がブルリと震えた。 以前のセブンスとは全く違うとわかっていても、亮の身体の奥底に刻まれた恐怖は深く傷を作り、今もジクジクと血を流し続けているのだろう。 「それにセブンスの肉体にはおまえの兄──成坂修司という人物が付き添っている。兄に会いたいだろう?」 リモーネが亮の背の羽根を撫で梳きながら、シドの腕の中で止めようもなく震える亮の顔を覗き込んだ。 思いも掛けない名前に亮は驚いたように顔を上げ、リモーネをまん丸の瞳で仰ぎ見る。 「……あに……、修にぃ? 修にぃ来てるの!? ここに!?」 「うむ。おまえの肉体がここへ運び込まれたとき、付き添いで一緒にやって来た。リアルでのおまえの肉体は眠りどうしだ。兄上はきっとおまえの目覚めた顔が見たいはずだ」 次に亮はシドの顔を見上げた。 まるでこれが本当なのかと確認するように、信じて良いのかと伺いを立てるように。 それに対し「ああ」とうなずいてやれば、亮の震えは徐々におさまり、安心したようにくったりとシドの胸に身を預ける。 修司の名の絶大な威力にシドは舌を巻く。この兄弟の絆の強さに、微かな嫉妬すら覚えるほどだ。 だが亮の恐怖を霧散させてくれる修司の存在は亮にとって大きな力となるはずで、シドは会社を捨て置いて弟を取った修司の決断に心中で深く頭を垂れた。 「決まりだな。そうとなれば早速外部のレオンと連絡を取って準備に入るとしよう」 「ルキくんはとりあえずこっちで待機で、その後亮くんの問題がないようならセブンスへ向かってくれる?」 「はいっ」 病室はあわただしく動き始める。 「なるべく早く戻る。また暴れて修司を困らせるなよ?」 「あっ、暴れねーし! シドこそあんま恐い顔して部下の人を虐めんなよっ!?」 シドが腕の中の温もりを今一度確かめるように抱きしめると、今度はおずおずと亮の細い腕が背に回され、きゅっと抱きしめ返された。 夢を見た。 自分はクローゼットの奥に隠れて、小さく開けた隙間から外の世界で展開されるめくるめく世界をじっと見ている。 ベッドの激しく軋む音。 興奮した男のうめき声と高く上がる少女の悲鳴。 熱に浮かされたように名を呼ぶ男の声は壮年を過ぎた成熟したものなのに、その声色にはどこか甘えたような響きが混じる。 泣きじゃくる少女に卑猥な言葉を強要し、無理矢理行為をねだらせる性癖には嫌悪しか感じないが、その気色の悪い要求をクローゼットのこちら側で聞く己自身、股間の分身が痛いほどに立ち上がりだらだらと浅ましい汁を滴らせてしまっていることに気付いてしまう。 普段は清廉潔白かつ公明正大な裁判長の顔を持つソヴィロの長。 法には厳しいが優しく、理知的な彼は伯爵の爵位をも持つ名門中の名門の出自だ。 そしてソヴィロ種だけでなく多くのソムニア達の尊敬の念を集める誰もが認める紳士は、己の子供ほども離れた歳の少女──。いや、少女の服装をさせた少年のドレスをまくりあげ、己の欲望を幼い窄まりにねじ込んで獣のように腰を振り続けていた。 ぐちょぐちょと耳を覆いたくなる水音と、少年の尻に腰を打ち付ける肉の乾いた音がリズミカルに響き渡り、その音に合わせて時折引きつったような嬌声が少年の桜色の唇からほとばしり出る。 あの少年を自分は知っている。 新たにセブンスへ保護された八番目のゲボ。 まだソムニアに目覚めたばかりで未転生の彼は十五歳で、ソムニアがなんであるのか、ゲボとはどういうものなのか──何も知識がなく、訳もわからずIICRへ入れられてしまった可愛そうな子供だ。 彼の保護されていた場所のせいかゲボの長であるガーネットに疎まれ、少年はずいぶんと酷い環境に置かれていると聞き、自分も何度か彼への聞き取り調査を行った。 それでもセブンスという場所は特殊であり絶対で、自分の力が及ぶところではない。 気休め程度に「つらかったらいつでも言いなさい」と伝えるのが精一杯で、特に力になってやれることはなかった。 それでも健気に礼を言い、大丈夫です。がんばります。などと嘯く少年に、酷く胸が痛んだことを覚えている。 その少年の幼い茎をヴァイオレットは干涸らびかけた手でこすりあげ、僅かに顔を覗かせるバラ色の先端を親指の腹でぐりぐりと振動させる。 まだ敏感であろうそこを力任せにいじられれば、少年は悲鳴を上げながら首を振り、泣きながら腰を突き動かして淡い白濁液をまき散らす。 その瞬間、ヴァイオレットの動きも止まり、恍惚とした表情で腰を痙攣させ続ける。 「お、お、お、」と間抜けな呻きを上げながら口を開けている様は、卵に精子を掛ける雄鮭のように滑稽だ。 少年の直腸内に大量の精を放っているのであろう、ヴァイオレットは、ひとしきり身体を震わせるとずるりと己を引き抜き、少年の窄まりからしたたり落ちるどろりとした白濁液を満足そうに眺めて、そこへ今度は二本の指を挿入していく。 「トール、いけない子だ。イくときはきちんと言いなさいと教えたはずだよ?」 「……め、なさぃ。おじさま、ごめ、なさぃ、っ、ぃ、ぁ、ぐ、」 内部で指をゴリゴリとひねられ、少年は苦悶の呻きを上げる。痛みと快感を堪えようと、必死に両手がシーツを掴んでいるのが痛々しい。 その少年の表情を真上から存分に視姦しながら、ヴァイオレットのもう片方の手がドレスの胸当てをゆっくりとずらしていく。 左側だけ現れた艶やかな胸の飾りはピンク色で、触れられてもいないのにすでにぷっくりと膨れ、胸当ての布に引っかかってわずかにぷるりと震えた。 ヴァイオレットはその果実にのろのろと舌を伸ばし、尖らせた舌先で何度もそれを弾く。 大量の唾液がしたたり落ち、少年の乳首はとろとろに汚されていく。 「さぁトール、今度は言えるね? おじさまにどうして欲しいかちゃんとお話してごらん」 じゅるりと音を立て胸の果実を吸い上げたヴァイオレットは、少年の耳元まで舐め上げると小さな耳たぶを強めに噛み租借する。 「んぃっ……! ぁ……、」 少年はその痛みに震えながら堪えると、それでも小さな声でゲストの言いつけに応えていく。 「っ、トォルに、ぃれて、く、ださぃ」 「トール、それでは及第点は上げられないな。トールのどこに何を入れればいいのかね? 可愛いキミのお願いをおじさまもきちんと聞いてあげたいんだ。わかるね?」 上がりきった息で荒い呼吸をつきながら、ヴァイオレットが言う。 言いつけを守れない子供を叱るように、一際強くかの裁判長の指先が少年の奥を抉った。 「ぇぅっ!!」 甘い悲鳴が上がる。 そのまま強く何度も指を抜き差しされ、つんと立ち上がった乳首を捻り上げられる。 亮は泣きながら何度も「おじさまごめんなさい」を繰り返している。 少年は──トオル ナリサカは嫌がりながらも感じているのだ。 背筋にぞくりとしたものが這い上る。 その頃になると自分の──私の陰茎も暴発寸前にそそり立ち、いつのまにか前をくつろがせ、自らゆるゆるとこすりあげてしまっていることに気がつく。 こんなことをしてはいけないと思うのに、止められない。 先日式を挙げたばかりの妻の顔が一瞬浮かんだが、それもすぐに消え去っていた。 「とぉる、の、ぉしり、なか、に、おじさまの、あまぃ、ミルクきゃんでぃ、もっと、もと、いぱい、食べさせて、くだ、さぃ」 あの無垢な亮の口からみだらなお願いごとが紡ぎ出され、ヴァイオレットは歓喜に満ちた目で少年を見下ろす。 「トールは本当にイケナイ子だ。おじさまをこんなにさせて、酷い罪人だ──」 独り言のように呟きながら、再び己のモノを小さな尻朶の間にあてがうと上下に動かし、ゆっくりと腰を押し進めていく。 それと同時に私自身もまるで亮を犯すように腰を突き出していく。 無垢で何も知らないあのゲボが私以外の誰かによって汚されていくのを、黙ってみている。 「さぁ、トールの好きなキャンディだよ。たんと食べなさい」 ヴァイオレットが少年の小さな身体に覆い被さり、再び獣のように腰を振り始めた。 高く上に掲げられた二本の細い足が、ヴァイオレットの肩の向こうから覗き、もがくように揺れていた。 私も腰を揺すり、激しく自慰を繰り返す。 亮の悲鳴と嬌声が時折くぐもったように聞こえ、それが私をさらに高みへと押し上げた。 可愛そうな少年。何の罪もないのに、大人達の歪んだ欲望を押しつけられ汚されて──。 ひとしきり少年の内部を楽しみヴァイオレットが精を注ぎ込むのと同時に、私も声を殺して吐精を果たしていた。 「っひ、ぐ……ぁっ、ぁっ、ゃ……」 亮の弱々しい悲鳴が上がる。 その声を聞きながら、残った僅かな精もとろとろと手の中にしたたり落ちる。 今まで感じたことのない高揚感と充足感が私を包み込んでいた。 そして真夜中目を開ける。 何度も見た夢だ。 この夢を見た日はいい年をして下着を汚すこともあるが、今回は大丈夫のようだった。 隣のベッドで眠る妻にバレでもしたら目も当てられない。 暗がりの中身を起こし、彼女の様子を伺うが未だ深い眠りの中にあるようだ。 私はもてあました下半身をどうにかすべく、バスルームへと向かう。 トオル ナリサカが戻ってきた。 その事実はIICR的には重要な事項であるが、私にとっても決して小さなことではないようだった。 この呪われでもしたような淫夢を見る回数がこの数日、確実に増えていた。 亮は今頃ヴェルミリオに甘えているのだろうか。 そう考えるだけで胸の奥がジクリ、ジクリと痛み、吐息に熱がこもる。 ガウンを脱ぎ捨てシャワーのコックをひねる。 熱いシャワーを浴びながら、私は夢を反芻し、最低の行為にふける。 亮はどんな顔でヴェルミリオに抱かれるのだろうか。 おそらくセブンスで起きていたような悲惨なものではないはずだ。 幸せそうに笑顔を見せる亮の顔を想像して、さらに強くこすり上げる。 決して手に入らない、手に入れられないもの。 自分が助け出そうとして自分が堕としてしまったもの。 それが汚される行為で、私は熱いほとばしりをシャワーの渦の中へ放っていた。 「最低だな……」 今は職務が第一だ。 こんなくだらない害にしかならぬ癖など捨ててしまうほかない。 吐精後の妙に冷めた頭でそう思い直し、私はシャワーのコックを冷水に切り替えた。 |