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深夜二時を回ってはいるが、レドグレイの執務室には未だ灯りが点っている。 ヴァーテクスの長老達は普段からこの本部フロアに顔を出すことはなく、動いているのは実質レドグレイとその部下達のみということになるのだが、その部下達も今日は全て帰宅させている。 ヴァーテクスに於いてはこのような日が一月に一度。多いときは数度にわたってあるのが常である。それは取りも直さずここが最上級の機密を扱う頂点の機関であるためであり、完璧主義を旨とするレドグレイの性向が仕事に没頭したい折や、外部との交渉を行うときなど、己以外の者を排除させるということを部下の誰もが暗黙の了解として心得ている。 地上遙か上空に位置するこの高層ビルのフロアには今、レドグレイの冷えた事務的な声だけが響いていた。 盗聴不能の直通有線回線を用い、レドグレイは彼らから三度目の報告を受けている最中だ。 「河北省の7名はやはり間違いなかったか」 『はい。以前報告したマナウスの3名、フォートワースの2名、ジブチの4名と合わせて16名。ほぼ確定と我々ガミジンは判断しました』 「驚いたな。種に関係なく即誕とは──」 『常識では考えられないことだと思います。周期の長いトゥリザーツやイェーラに至るまで、全て一律同時に、しかも同一の場所に複数人転生を果たすなど、ソムニアの歴史上確認されていない事象だと思われます』 ガミジン──と名乗った組織の人間からの一報にレドグレイは嘆息すると、重厚なオフィスチェアへ背を預ける。最高級のハーマンミラーは音もなく彼の体重を受け止め、ゆったりと背を撓ませた。 「しかし──さすがに仕事が早い。クワトロ1の事故から一月弱でこの調査結果が出せるとは、ガミジンが死者の魂を呼び出すというのは真実ではあるまいな」 その自らの驚きを誤魔化すように冗談めかしてレドグレイが言えば、通話の相手も苦笑しながら『それならば楽なんですがね』と返す。 『我々は登録管理局の元蓄積された数百年に及ぶ記録を元に、独自の計算式と人力の足でもって転生者を追跡する泥臭い組織に過ぎませんよ』 「長年の付き合いがあるとはいえ、他組織である我々IICRへの情報提供、いつも感謝している。……そこでもう一つ頼みがあるのだが」 『……今回の転生事象の開示をうちで差し止めておけ、ということでしょうか』 「そちらの言うとおりこれは異常事態だ。現在IICRは諸問題で少々ばたついていてね。正直組織としてキャパシティー一杯なのだよ。これ以上の『異常事態』をうちに投入するのは得策ではないとヴァーテクスの執政として私は判断した」 『そうは言われますが、亡くなったと見なされている16名にも親しい方がいらっしゃったはず。この上なく良いニュースなのですから、その方達だけにでもお知らせしては──』 「いや。秘密はすぐに漏れるものだ。特に良いニュースとあれば尚更な。ガミジンとヴァーテクスの間のような堅固な内緒話は他の人間には望めない。私は身内以上にそちらを信用しているということだ。絶対機密であるクアトロ1事故の件を外部であるそちらに漏らすほどにね」 そのようにレドグレイに言われれば、ガミジンの調査官も黙り込んでしまうより他にない。 全くの他組織であるIICRと登録管理局であるが、ヴァーテクスとガミジンでは圧倒的にヴァーテクスの側にパワーがある。 前者はIICRの頂点であり、後者は管理局の下部組織に過ぎない。 IICRとの長年の太いパイプのおかげで、管理局側は常にソムニア界においてあらゆる面で優遇措置が執られており、ヴァーテクスの──否、レドグレイの機嫌を損なうことは組織の不利益になるということを彼も熟知している。 今回の情報はどこにも悪い要素が見あたらない朗報だというのに、あくまでそれを伏せるというレドグレイの考えは理解できなかったが、それでもかの執政官がそのように言うのであればガミジン側としては首を縦に振らざるを得ない。 『わかりました。ですが上には報告させていただきます。その際、ヴァーテクスの要請を伝えておきますので──』 「すまないな。今回のことはこちらの借りにしておいて欲しいと局長に伝えてくれ」 了承の旨を残して通話が切れると、レドグレイはほっと息を着き、整然としたデスクの上に置かれた小さな記録用カードをつまみ上げていた。 黒一色に塗りつぶされた何の情報も書かれていないそのカードの表面をレドグレイは何度か親指でこすると、デスクに置かれた古いネットブックへ差し込んでいた。 電源を入れれば静かに画面が光り出す。 12インチの小さなモニターに、ある映像が映し出されたのはそれから約二分後のことだった。 苛立ち。 怒り。 破壊衝動。 それが今の彼を支配している全てだった。 コモンズがこの組織で働く上で常に感じるのは、正機構員からの軽侮の眼差しとそれを裏付ける圧倒的な能力の差だ。 一般的な世界でどれだけ優秀な人材であろうとも、ここへ入ってしまえば生物として、魂として、彼らは眼下に見られる存在となる。 普段の生活や勤務中に於いて露骨にそのような態度を取るソムニアは少ないが、言動の端々に根底に流れるいかんともしがたい差別が垣間見えるのは常態であった。 それでもこの職場を希望したのはひとえに人類としての矜持があるからだ。 曲がりなりにもコモンズがソムニアと対等に仕事ができる環境の最高峰と言われているのがここ、IICRであり、ソムニアであった実兄から与えられ続けた古傷のような劣等感を優越感に書き換えるためにはここでの成功のみが必要な全てだと信じて疑わなかった。 その信念通り、一般のソムニアに過ぎない兄の果たせなかったIICR入りをコモンズの身で果たした彼は、人生で初めて世界が自分のために動き始めた気がした。 空は急に高くなり、世界は色鮮やかに見えた。 だがそれも長くは続かなかった。 ソムニアとコモンズ、対等に仕事が出来るはずのこの場所に於いても、件の格差は連綿として続いていたからだ。 再び暗く陰る日常だったが、今更この職を辞める気もなかった。辞めた瞬間、兄より優秀な自分は消えてなくなってしまう。それだけはできなかった。 鬱屈した感情は彼を苦しめ、ただ淡々と仕事をこなすだけの日々が続いた。 そんな中再び彼に光が差したのは、入構を果たして三年目の春の出来事だった。 研究局付きの彼が地上勤からセラ勤務へ移動させられ、第53号施設のエンジニアに就任した時のことだ。 初めはこの降格人事に絶望しかなかった彼だが、そんな彼の鬱々とした態度を笑い飛ばす人物がそこにはいた。 彼女はまだ転生3度目の若いソムニアで、優秀なトゥリザーツ種だった。 主に「セラとリアルをつなぐコンピューターのシステム管理」という雑用に近い仕事の彼とは違い、彼女は研究施設内でプロジェクトを任される程の実力者だった。 だが彼女は、会話もせず笑顔すら見せない強面の彼に笑いかけ、当たり前のように会話をし、愚痴さえ零していくのだ。 今まで凝り固まっていた彼の内面は気づけばさらさらと溶け出し、目の前には広々とした世界が広がっていた。 彼女を尊敬していたし、その明るい笑顔をいつまでも眺めていたいと思った。 おそらく恋をしていたんだろうと、今では思う。 もちろん、そのことを彼女に伝えることなどできなかったが、それでも共に仕事をし、共に笑い合うだけで十分だったのだ。 しかし、そんな日々は突然奪われた。 あの11月11日午前2時21分。 悪夢が53号施設を襲い、世界は闇に閉ざされた。 目の前のビジョンが赤褐色に染まって見える。 まくり上げたシャツの袖に染み込むお湯の温度もよくわからない。 すぐわきでいつものように「湯加減を見る」と謳っている同僚が何も言わず、ご機嫌な調子で少年の髪を撫で梳いているところを見ると、おそらく適温なのだろう。 バスタブに半分ほど溜まった湯船に沈み込まないよう少年の身体を支えながら、ソウザは手のひらにつけたボディーソープで、彼の腰や脇を無造作にこすり上げていた。 ぼんやりと目を開いた少年は自分が今どこでどうなっているのか、理解すら出来ていないようだ。 チームリーダーであるエレフソンの指示で、クラウドリングの設定をアイドリング状態に固定しているせいだろう。 リングの効果で今の状況を彼は自身の脳内にもアルマにも蓄積できず、かといってアイドリング状態であるが故に、リング内にも保存することはできない。 アルマ内の記憶を引っ張り出してくることは可能だが、短期記憶をメモリ上で繰り返すだけで書き込みは行われないのだ。 であるがゆえに、彼の判断能力は極端に低くまさに夢うつつという状況がぴったりなのだと思う。 だが身体の感覚は正常であり痛みなどには敏感に反応するらしく、時折ソウザが強くこすりすぎてしまえば、抵抗を示すように身体をいざらせ彼の手を引きはがそうとしたりする。 今も首元を洗っている最中ツメが引っかかってしまったらしく、少年は「やっ」と拒絶の鳴き声をあげると、支えるソウザの身体を足で蹴り上げていた。 派手な水音が鳴り、ただでさえ濡れた衣服がますます濡れそぼってしまう。 それでも少年を取り落とさないようにしっかり腕に力を入れると、ソウザは無言で洗い続ける。 何をしているのだろうと思った。 目の前がぐらぐらと赤く煮えて見える。 自分はなぜこの少年の世話を焼いているのか。 このヒトの形をした別の生き物の身体を清め、髪を乾かし、壊れものでも扱うように寝床へ運ばねばならないのか。 黒く大きい飴玉のような瞳。薔薇色の頬。果実のような唇。そのどれもが絶妙のバランスで配置された愛らしい顔はまるで人形だ。 細い手足。しなやかな身体。白い肌。 体の大きなソウザが少し力を入れれば簡単に壊れてしまいそうなこの見た目は、だが、全てがまがい物だと彼は知っている。 こんな庇護欲をそそる容姿をして、こんな綺麗な声で鳴いて、周りの人間全てをチャームで縛り付けるこのまがい物の子供が薄気味悪くて仕方がない。 腕の中で再び子供が暴れた。 苛立ちが募る。 ソウザは片足をバスタブの中に踏み入れ、これ以上少年が暴れないように左腕で腰を抱え上げる。 「ソウザくん、もっと優しくって言ってるのに! ちょっと!」 少年の髪を洗っていたラージがとがめ立てるようにこちらを向いたが、ソウザには何か雑音が周りで響いているくらいにしか聞こえてはいなかった。 こんなに世話をしてやっているのに何が不満なのか。 なぜこんな怯えたような顔でこちらを見るのか。 今は頭の中まで人形のくせに、一人前に人間のように反抗してみせるのか。 少年の反応を意に介さず足の付け根を無造作にこすり上げれば、細い身体がぶるりと震え、逃げるように頭の側のラージへとすがりつく。 洗ってやっているのはソウザだというのに、まがいものの人形はその判断すらできない下等な存在なのだ。 こんなものに、あの人は殺されたのだ。 こいつさえいなければ、あの人は生きていたし、次の日も次の日も、またその次の日も、いつものようにくだらないことを喋りながら、笑いながら──仕事をしていたのだ。 こんな思いをしながら世話してやっているソウザを嫌う権利など、こいつにはありはしない。 耳の奥でドクドクと音が鳴っていた。 「化け物のくせに──っ」 唸るような声が喉の奥から漏れ出ていた。 逃げようとする身体を左腕で引きずり下ろし、湯に沈む頭をそのまま上から押さえつけた。 細い手足が湯を散らし暴れているが、クラウドリングで制御されたソムニアの力などソウザの体格の前にはコモンズの子供程度でしかない。 周りでエレフソンやラージが何か叫んでいたが、最早ソウザには何も聞こえなかった。 背後から羽交い締めにしようとするラージの腕をふりほどき、彼はバスタブの中に躍り込むと、少年の頭を湯船に沈めたまま、その細い首を片手で鷲掴みにした。 指の関節が節くれ立ち、ぎりぎりと太い指が喉へ食い込んでいく。 暴れていた手足の力が急速に抜け、ぱしゃんと音を立て湯の中に落ちた。 「ソウザっ! それだけは駄目だっ!」 エレフソンが叫ぶと、再び背後からラージによって羽交い締めにされ、今度こそ引き離される。 「っ、放せっ! こいつは化け物だぞ、人間らしく扱われる権利なんてないっ! 生きていく権利もなければ笑う権利もないっ! 俺が殺してやる。殺してやるっ!」 「ちょ、リーダー。非常ボタン押して!」 暴れるソウザをどうにか背後からラージが押さえつけエレフソンに助けを求めるが、リーダーはポケットに入った携帯式非常ボタンを取り出すこともなく、湯船の中から亮を助け起こしながらこう言った。 「君の無念はよくわかる。あの事故で有望な16名のソムニアが寂静したんだからな。……だから君の言葉を借りるなら──。君にはその無念を晴らす権利がある。だが、それは殺す以外の方法にしてくれ」 助け起こされた亮はひどく咽せながら、それでも背後のエレフソンにしがみついていた。 白い背に息づいた小さな羽根も、その恐怖からか小刻みに震えている。 再びソウザの中に制御しきれないほどの苛立ちが湧き上がる。 「殺す以外の方法って、それ、リーダー……」 ラージが唖然とした様子でそう呟いた瞬間、ソウザはその腕をふりほどき、ゆっくりとバスタブの中へ足を踏み入れていた。 エレフソンにしがみつく亮の羽根をソウザの大きな手が鷲掴みし、力加減なく引っ張り上げる。 「いっ!」 難なく引きはがされた少年は背後の男から逃げようと必死に羽根を羽ばたかせ、腕を振り回すが、喉元へ腕を回され抱え上げられるとその苦しさに一気に勢いをなくしてしまう。 「君はこの子にとってもっと相応しい償いの方法を知っているんじゃないか?」 語りながらエレフソンも大きなバスタブへ足を踏み入れ、少年の喉元へ回されているソウザの腕に手を掛けた。 ソウザの腕の中で亮は弱々しく藻掻き、華奢な身体が動く度、彼の苛立ちはますます強くなっていく。 「さあ、亮さん。体洗浄の続きをしましょう。今度は後ろから洗ってもらいましょうね」 エレフソンの手に導かれるようにソウザは腕を外し、亮は逃げるようにエレフソンへしがみつく。 それを支えながら彼は服のままそろそろとバスタブの中へ腰を下ろし、亮を己の上にまたがせ座らせる。 言われるまま大人しくしている少年の上半身を抱き寄せると、片腕でゆっくりと腰をあげさせた。 白く小さな尻たぶが湯船の上に浮かび上がれば、ソウザの喉元がごくりと一度大きく動いた。 未だジェルで濡れ光っているそれに向かいゆるゆると身体を屈ませた彼は、湯の中で揺れる細い腿を両手で掴み上げると、少年の白桃の間に鼻先を突っ込み、貪るように舌先をこじ入れる。 目に見えてびくんと少年の身体が跳ね、逃げだそうと足を動かすが、二人の男に押さえられ身動きを取ることはできなくなっている。 じゅるじゅると音を立て、ソウザは亮の奥深くを吸い上げる。 「や、ゃだ……っ」 ようやく亮は己が何をされているのか、理解したようだった。 これから先自分が男達にどのように扱われるのか、この数年で亮のアルマには深く刻みつけられてしまている。 心から恐怖する少年は萎縮し、戦きながらも必死の抵抗を始めた。 振り回される腕をエレフソンが掴み、噛んで含めるように優しい声音で諭していく。 「しーっ、静かに。よく聞いてください。私たちはあなたを洗うのがお仕事。亮さんは私たちに洗われるのがお仕事なんですよ? たとえそれが嫌なことだったとしても、あなたは罪もない人たちを何人も殺してしまったでしょう? そんなあなたが大事なお仕事を断る事なんてできると思いますか?」 亮はこぼれ落ちそうに目を見開き、己の身体を抱くエレフソンの顔を眺めていた。 エレフソンの言葉の意味を理解しきる前に、背後から再び羽根を引っ張り上げられ、耳元でこう囁かれる。 「おまえは人殺しだ。トオル ナリサカ」 ヒュッと亮の喉が鳴った。 何かを思い出したかのように、全身の筋肉がこわばっていく。 己の罪に怯える少年の後腔に、ソウザはズボン越しに猛った己をこすりつけていた。 擦りつける度に少年のそこはひくひくと吸い付き、ソウザは焦るように前をくつろげる。 「おまえは俺の大事な人を殺した。わかるか? ただ殺しただけじゃない。二度と生まれないように消したんだ。寂静したんだ!」 見開かれた瞳はエレフソンに向けられていたが、そこには何も映ってはいない。 亮の眼前にはその時の光景がありありと浮かんでいるようだった。 「ォレ、……、ひと、殺した……」 「そうだ。人殺し」 独り言のように呟きながら、ソウザは亮の中に腰を沈めていく。 「ぉ……、ぉ……、ぁ……」 少年の中を無理矢理押し開いていく感覚に恍惚とし、歯の根が合わないほどの快感に虚空を睨みながらソウザは意味のない呻きを上げていた。 「ぃ……、ゃ……、ゃだ……」 それでも反射的に逃げようとする亮の羽根を引きちぎるほどにつかみ上げると、一気に腰を突き入れる。 「ぃぎっ!」 痛みと衝撃で亮の身体が跳ね上がる。 ソウザは動きを止めたままビクビクと腰を揺らし、中へ大量の精を放っていた。 「ああ、可愛そうに、亮さん。あなたはカラークラウンしか手を触れられない高貴なゲボだというのに、こんなしがないコモンズに中へ出されてしまって……。これはあるまじき侮辱的な行為ですよね」 上半身を支えたエレフソンは酷く真面目な表情でそう言うと、ソープをつけた手のひらを下肢へ伸ばし、未だ頭を垂れた幼いそれをそろそろと洗い始める。 同時にもう片方の手で小さな臍へ指をこじ入れていた。 「ここもちゃんと洗いましょうね。ぁぁ……、このすぐ下に亮さんの腸が詰まってるんですよ? 綺麗にして……おかないと……、ふ……、もっと突き入れてお腹の中まで私の指でくちゅくちゅ洗ってあげたく……なります、ね……」 未熟なそれが芯を持って起ち上がっていく感触と、腹部に開く禁忌の穴へ指先を突き入れる感触に、エレフソンは真面目な顔のまま眼を細め、小刻みに腰をゆらし始めていた。 抱きかかえる状態で洗浄を繰り返せば、エレフソンの腕の中で亮の身体はびくつき、鳴き声混じりの拒絶を何度も口にする。 「ほらもう、亮くん泣いちゃってるじゃない。なんでそう意地悪ばっかり言うんです? 洗ってあげるのは僕も大賛成だけど、もっと優しくしてあげないと。今度は僕と位置変わってよ、ソウザくん」 エレフソンの肩越しに外を向いた亮の顔の前にラージはそっと近寄り、頬を撫でながらその額や目蓋にリップ音を立ててキスをする。 亮とのスキンシップに最も積極的だった彼には、こういった行為は禁忌には映らないらしい。 「うるさいっ! これは……、俺の、ものだっ、俺だけが罰を与えていいんだっ」 「リーダーもソウザくんも難しい顔して、こんなことばっか考えてたんだ。ムッツリはやだねぇ」 辟易した様子で肩をすくめたラージは、息も絶え絶えの亮の頭を抱え、つむじにそっと口付ける。 「トオル。っ、トオル……、っ、トオルっ……」 一度放ったというのに萎えることなく、ソウザは腰を打ち付け始めていた。 痣でも着くほどに細い腰を強く掴み、羽根を引っ張り上げ、おもちゃか何かのように亮の身体を突き上げる。 「ぃっ、……、ひぅ……っ、たすけ……、シ…………、シドっ、……シ……」 痛みと強制的に与えられる快楽に、リングの効果で朦朧とした亮はついにある人物の名を呼び始めていた。 突き上げられる度、こぼれ落ちる涙と共に、その名が口を突いて漏れてしまう。 「くそっ、黙れっ、化け物っ! 人殺しっ! おまえに助けを求めることなど、ゆる、されないっ!」 「ぃぁっ……、ぎ……、っ、ごめ、なさぃ……っ、ォレ、、ごめ、なさい……っ」 「何がごめんなさいなんです?」 目の前で揺れる亮の胸の飾りを舌先で洗いながら、エレフソンが問いただせば、亮はえづきながら謝罪の言葉を続ける。 「ォレ、ひと、ころして、ごめ、なさい……。なんにんも、いっぱい、ころして、ごめ、なさぃ……、おれ、ひとごろし、だから……ごめ、なさ……」 「ぉ……、ぉ……、ふ……ぅ……っ!!!!」 亮の弱々しい懺悔に、ソウザの背にゾクゾクと陰鬱な愉悦が湧き起こり、再び太ももの筋肉を震わせながら亮の中へ何度も精液を注ぎ込んでしまう。 亮の身体もその熱に反り返り、気管支を引き攣らせ幼い精を二度、放っていた。 「ぇぁっ……!!! ぁ、っ」 己の眼鏡へ掛かったそのミルクをエレフソンは残さず指先でこそげ取ると、ゆっくりと舐め取る。 「…………、っ、……ソムニアにとってのご馳走も、私たちコモンズには、ただの精液……で、すね」 言いながらも、彼はびくんと腰を突き上げ、陶然と溜息をついた。 ついに嗚咽を上げて亮は泣き始めてしまう。 張るだけの気力も意識も奪われている亮には、これが限界だった。 「ぇ……、っ、うぇっ、えぇぇぇっ、ごめ、なさ、シ、……シ、……め、なさぃ、……シ」 何度も名を呼ぶ亮の身体を抱きすくめながら、エレフソンは亮の身体を洗い続ける。 「さて、時間も迫ってきました。ソウザに汚されてしまったお腹の中も……綺麗にして帰りましょうか、亮さん」 レドグレイは深く深く震えるように息を着くと、ゆっくりと目を閉じた。 いつしかネットブックのモニターはブラックアウトし、室内の間接照明のみが執務室の光源となる。 数分後、ヴァーテクスの長はデスクに常備されたウェットティッシュで手のひらを拭いながら立ち上がる。 デスク上に散らかったいくつかの同様のゴミを片付けると、彼はネットブックから黒い記録用カードを取り出し懐へと仕舞った。 大きく取られた執務室の窓から、朝日が差し始めている。 喉が酷く渇いていた。 眼を細め、何かを思い出してはもう一度大きく熱い息を吐く。 今すぐよく冷えた水を飲みたいと思った。 |