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相手の目的がわからなかった。 誰がこれをしかけたのか。 何を考えてこうしたのか。 どう考えても、これは尋常な状況ではない。 しかし、フェフ・ライラックは手にした小さな紙袋を捨てることが出来ないでいる。 「間違いねぇよな。こりゃどう見ても――」 何度も自分で確認してみたが、その紙袋に収められていた粉末は、十数グラムのGMDに相違ないという結論に達する。 この紙袋が自宅のポストに投げ込まれていたのが昨日。 GMDは英国でも医療機関で扱われる以外は認められていない薬物であり、許可なく所持しているだけで逮捕の対象となってしまう。 すぐにでもIICRか警察に届け出て然るべきなのだが、しかし、ライラックは一晩寝た今日になっても、それができないでいた。 本部にいる人間には、GMDを手に入れることは通常の人間よりも容易ではある。 しかし許可を取って手に入れたGMDでは、使用するときに制約が生まれてしまう。 こんなどうにでも扱えるGMDを手にすることができるなど、ライラックは思いもしないことだったのだ。 「誰がくれたか知らねぇが、どういう意味なんだ? ――俺をはめようって魂胆か。それとも、隠し場所に困って単に投げ込んだだけか」 どちらにせよ、このまま黙って持っていればそれだけで不利になるのは明らかだ。 「――いっそ使っちまうか」 こんなおいしい状況が訪れることは滅多にない。 警戒を示しつつも、ライラックの興味は止まることが出来ないようだ。 ――コンコン 武力局長執務室に、ノックの音が響き渡る。 ライラックの返事を待って入室してきたのは、研究局局長の、イェーラ・スティールであった。 たおやかな歩みでデスク前まで来ると、手にしていた報告書をライラックへと手渡す。 「先日の獄卒の検証資料です」 「あ、ああ。悪いな。わざわざスティールが持ってくるとは思わなかった。言えば取りに行かせたんだが――」 デスクの上の紙袋をそれとなく引き出しにしまいながら、ライラックが引きつった笑みを浮かべた。 「いえ、中央棟に用があったついでですから」 「用? 研究部にこもりっきりのおまえが珍しいな」 「ああ、ジオットやインカがうるさいものですから。ほら、例のセブンスのゲスト法についてもう一度議会を開くとかなんとか」 苦笑を浮かべたスティールの言葉に、ライラックが不機嫌そうに鼻を鳴らす。 「あいつらまだそんな下らねぇこと言ってんのか」 武力局のトップであるライラックは、皓竜の直接の上司であり、シュラの部の統括にあたる地位に居ることになる。 「ですが、ジオットはビアンコと懇意ですからね。もしかしたら、今の素敵なセブンスも、近いうちになくなるかもしれません」 「近いうちって――」 「まだ何とも言えませんが、次の定例会が明後日です。そこで何か取り決めが行われてしまうことも考えられますね。・・・亮を好きにかわいがってあげられるのも今日明日、ということでしょうか」 ライラックの眉がぴくりと上がった。 自分のリザーブは明日の三時から入っていたはずだ。 もしかしたらそれが最後の機会になるのかもしれない。 「それでは私はこれで。ごきげんよう、ライラック」 執務室を後にするスティールの後ろ姿を見送り、ライラックは視線を引き出しの中の紙袋へと移していた。 チャンスは明日しかない。 「はい。亮の好きなジュース、今日もちゃんと、持ってきてあげましたよ」 そう言って飲まされたのは、濃厚な桃のネクターだった。 ここ数回、スティールはいつもこのジュースを携えて、部屋を訪れる。 高級そうなガラス瓶に入れられた、甘く芳しい液体を震える唇で飲み干し、亮は怯えたようにスティールを見つめていた。 「このネクターを見ると、いつもあなたを思い出すんですよ、亮。甘くとろりとした味わいも、果物そのもののこの香りも」 ベッドに座り、こちらを眺めるスティールの顔が、亮の視界の中で次第にユラユラと揺らぎ出す。 「今日は、アイネ様と、柳毅様は――」 「今日は私一人だけです。亮には物足りないでしょうか?」 「ぃ、ぃぇ。そんなこと、ない、です」 次第に呼吸が苦しくなり、鼓動が早まってくるのを感じる。 あのジュースを飲むと、いつもそうなのだ。 そして最後にはただもう頭の芯が焼き切れたように、スティールの名を呼ぶしかなくなる。 ――あのジュースには、きっとじーえむでぃーが入ってる。 それが亮にはわかっていた。 しかし拒むことは出来ない。 言われるままに何でも飲み、求められるままに動く。 それが自分に課せられた仕事なのだ。 「このジュースには魔法がかかっています。亮は私の魔法で、すぐいい気持ちになれますよ? でも、魔法のことは、二人だけの秘密です。いいですね?」 最初にジュースを飲んだ日、スティールは亮の耳元でそう囁いていた。 これは薬のことは黙っていろと言うことなのだろう。 言われたとおりにしなければ、ガーネットにまた怒られる。 ――オレの帰る場所が、なくなる。 「はぃ、スティール様……」 亮には頷くことしかできなかった。 「っ、は…、す、てぃる、さま…」 ベッドの上の亮は苦しげに息をつき、潤んだ瞳でスティールを見上げていた。 しかしスティールはいつもと違い、亮に触れようとしない。 亮は次第にもじもじと身体を動かすと、自分から帯を解き浴衣をはだける。 それをスティールはただ眺めているだけだ。 「すてぃ、る、さま、ぉねがぃ、します。とぉる、を、可愛がって、くださぃ」 頬に朱を上らせながら、亮は必死にそう懇願していた。 ここ数週間、再び定期的に投与され始めたGMDの影響は著しく、亮は教え込まれたまま自ら足を開き、幼い己に指を絡めてみせる。 うまくできれば、褒めてもらえる。 優しく頭を撫でられて、そして亮の熱を収めてもらえる。 周囲の全てが正常さを失う中で、助けを求められる相手は唯一、スティールだけであった。 「ぁっ、ぁっ、んんっ」 既に雫を滴らせながら立ち上がった幼いモノを、亮の手が包み込み、ゆっくりと上下させていく。 徐々にぬちゃぬちゃと湿った音が漏れ始め、亮の唇から少女のような濡れた声が零れる。 「おやおや、私はまだ来たばかりだというのに、もう我慢できないんですか。亮はこらえ性のない子ですねぇ」 困ったように微笑んだスティールは、動かされる亮の手を押さえ込み、その幼い先端をぺろりと舐めた。 「ふあっ」 それだけの行為に、亮の身体がひくんと跳ね上がる。 いけそうでいけないもどかしさに亮が身震いし、スティールへ残された片手を伸ばそうとした、その時である。 不意にその手がふわりと上空に持ち上げられていた。 スティールに押さえられていた左手も、すぐにその後を追う。 あっという間に亮の身体は宙へとつり上げられ、大きくM字に足を開いたあられもない姿のまま固定されていた。 自分の状況がわからず、亮は怯えた表情で周囲を見回す。 しかし、亮の目には何も映らない。 ただ頭上高く持ち上げられた手や、抱え上げられた膝に、ネットのような柔らかな感触があるのを感じる。 「今日は特別な日になるのですから、特別な趣向で楽しみましょうね、亮」 スティールがそう言うと、ふんわりと彼の背後にかげろうが揺らぐ。 熱に浮かされぼやけた視界を懲らすと、亮の目にあり得ない生物の姿がホログラフの如く浮かんでは消える。 「――っ、す、てぃる、さま?」 「見えましたか? この子は以前ソラスに生ませた、私の可愛い使い魔です。蜘蛛の姿をしているのは、そのソラスが半人半虫の姿をしていたからでしょうね。さすがに能力が高く、リアルにも半分姿を現すことが出来る。――ですが、亮と私の使い魔なら、きっともっと・・・」 スティールはベッドの上に立ち上がると、中空で怯えたように目を見開く亮の頬にそっと触れた。 小型車ほどもあるような蜘蛛の影が、キシキシと音をたて騒ぐ。 「ああ、そんなにヤキモチを焼かないで、レイア。亮はもうすぐあなたの弟妹を生んでくれるのですから。私の花嫁は、あなたの主も一緒ですよ?」 レイアと呼ばれた巨大な蜘蛛は、それ以上音をたてることもなく、暗闇へと消えていく。 「っ、はっ、ぁっ、す、てぃる、さま。とぉ、る、およめ、さん?・・・」 「今日のジュースはかなり薄めてあったのですが、それでもつらそうですね、亮。可哀想に――」 スティールは目の前で揺れる亮の未成熟なモノに舌を這わせ、そのまま目の前に息づいているピンク色の蕾へ、さらに舌をねじ込んでいく。 「ひぅっ、ぁっ、ぁっ、ふぁっ」 両手で白桃を広げられ、ねじ込まれる生暖かい異物の感触に、亮は無意識に何度も窄まりをひくつかせた。 「こんなに蕾をひくひくさせて。あなたをこれほど淫蕩な子にしてしまったのは、私の責任ですね。今日でもう、ジュースのおみやげは終わりにしましょうか。これ以上亮の身体に負担をかけられませんから」 「はっ、はっ、はっ、・・・っ、」 荒い呼吸で涙を浮かべた亮は、首を傾げてスティールの顔をみつめるばかりだ。 これはもう、お薬を使われないというただそれだけのことなのだろうか。喜んでいいことなのだろうか。 「これからはあんなものがなくても、亮は私の言うことをきちんときいてくれる、お利口な子になってくれますから」 スティールは優しげに微笑むと、長い黒髪を揺らして亮の顔を見上げていた。 「亮。あなたの本当の名前、私に教えてください」 「・・・?」 言葉の意味がわからず、亮は黙ったままスティールの顔を見返すしかない。 「真実の名、ですよ。あなたもソムニアなら、思い出しているはずです。それを、私に教えなさい」 「し、ん、じつの、な? とぉるの、なまえ――」 亮は薬物影響下のたどたどしい口調で、スティールの命令を繰り返す。 繰り返しGMDを使うことにより、亮の薬物影響下における退行現象はさらに顕著なものになっていた。 今の亮ならば、真実の名を聞き出すのは容易なことだと、スティールは考えていたのだ。 真実の名を聞き出し、それを呼べば、亮は魂ごと完全にスティールの支配下に置かれることとなる。 GMDなど使わずとも、スティールの命令は絶対となり、たとえ転生を繰り返しても、ヒトとして同じ形態のアルマを持つ限りこの契約は永遠に続くことになる。 成坂 亮を完全に己の物にできるのだ。 スティールの口元に我知らず微笑がのぼる。 しかし、亮はスティールの予想を裏切る答えを返していた。 「なまぇ。とぉる、の、ぉなまぇ、――ないしょ、なの」 焦点の合わない視線を向けたまま、亮はいやいやをする。 スティールの表情が険しくなる。 「亮。私の言うことがきけないと言うのですか? ガーネットに報告しても・・・」 「いやっ、いやぁっ! ないしょなのっ! とぉる、ぉなまぇ、言っちゃだめって、シドが言ったもん! だから、ないしょなのっ」 駄々をこねる子供のように首を振り、亮は信じられないような抵抗を見せていた。 一度不用意に名を漏らした過去のある亮は、それによって大事な記憶を消されたトラウマがある。 それを知ったシドに、「己の真実の名を決して口にしてはならない」と亮は改めて深く教え込まれていたのだ。 「ぉなまぇ、おしえると、だいじな、もの、なくなるって、シドが、言ったもんっ」 「シド=クライヴなど、最低の人間ですよ? あんな者の言うことを信用してはいけません。亮は私の言うことだけ聞いて――」 「いやぁっ、すてぃる、さま、きらいっ! とぉるは、しどが、すきっ!」 首を振り手足をばたつかせ、ゆらゆらと亮の身体が揺れる。 スティールは般若の如き凄まじい形相で亮の足をつかむと、右手で亮の足を持ち上げ、親指の爪を一気に引きはがしていた。 「っ、ぃぎゃぁぁぁっ!!!!」 突然の肉をめくられる激痛に、亮は悲鳴を上げ身体を硬直させる。 「――っ、ほら言うこと聞かない子は、こんな酷い目に会うんですよ。もう一度、同じ事を言ってごらんなさい」 「ひぅっ、ぁっ、はっ、…っ」 大量の涙をぽたぽたと流しながら、亮は惚けたようにいやいやをするしかない。 退行した亮には、自分に何が起きているのかわからなかった。 ただ、左足の先が、焼きごてを当てられたように熱く、どくどくと脈打っている。 「言いなさい。亮が好きなのは誰なんです?」 「と、る、の、すきなのは、し――ひぐぅぅっ!!!」 スティールの手から、新たな小さな光る欠片が投げ捨てられていた。 亮の身体が痛みでガクガクと震える。 その全身に冷たい汗が滲み、亮の白い身体をなまめかしく光らせている。 「もう一度。ですよ。亮。亮の好きな人は誰ですか?」 「はっ、…っ、はっ、――とぉぅの、すき、な、ひと、は、しぃ――がああぁぁっ、ぁぅっ、ぃっ、ぃたぃ、よぉ」 荒く速い呼吸で息をつきながら亮は泣きじゃくる。 なぜ自分がこんな目にあわされるのか、亮には全くわからなかった。 スティールの言うとおり、同じ事を言っているのに、何度も何度も痛いことが襲ってくる。 どうすれば痛くなくなるのか、亮は必死で考えていた。 「さぁ、もう一度」 「とぉぅの、すき、な、ひと、は――、すき、な、の、は――、・・・、とぉぅ、すき、なの――は、すてぃる、さま・・・」 「嫌いなのは?」 「きらい、なの、は――、きらい、のは――、し…」 「シ?」 「し…ど・・・――っ、かはっ、ぃぎぃぃぃっ!!」 再び光る欠片がベッドの上に落とされる。 亮の身体が硬直し、手足がめいっぱい突っ張られる。 「嘘はいけませんね、亮。そんな小さな声で泣きながら言われても、私には信じられません。もっとちゃんと、私にも信じられるように、証拠を見せてもらわないと」 「ぅぇっ、ぇっ、…しょ…こ?」 「そうです。証拠。亮の本当のお名前、スティール様に教えてくださいますか? そうしたら、亮の言うことを信じてあげましょう」 目の前で揺れる亮のモノを、指先でくちゅくちゅと弄りながら、スティールは続ける。 「それとも、亮はこうされるのが好きなのかな? あんなに痛がっていたのに、亮のここはこんなに起ち上がって、気持ちいい気持ちいいって言ってますよ?」 「っ、ぁっ、ふぁっ、らめ、ちが、の。ぃたぃの、いやぁっ、」 「本当に嫌? 亮は好きは嫌いだし、嫌いは好きだと言う。だから痛いのはイイんでしょう? スティール様は、亮が本当に好きなことだけしてあげたいのですが、これじゃよくわかりませんよ。ねぇ?」 言うと、今度は怯えて引こうとする亮の逆側の足をつかみ、艶々と光る健康な爪をもう一枚、力任せにねじ取っていた。 「っっっっっ!!!!!!! ぃぁああっ!!」 亮の身体を僅かに引き下げながら、手に滴る亮の血を己のモノにこすりつける。 そして痛みに震える亮の中へ、スティールはゆっくりと挿入していった。 痛みと恐怖で引きつる亮の中は激しくスティールを締め付ける。 スティールはその感覚に、震える息を吐き出しながら動き始めていた。 「亮。私に教えてください。あなたが好きなのは、誰ですか?」 ずくりと突き上げ、囁きかける。 「ぃっ、ぃぁっ、ぁっ、す、てぃる、さま、が、すき、です」 「ではその証拠を、見せてください。――亮のお名前は?」 亮の感じるところを何度か擦り上げ、再び奥まで突き入れてやる。 「ひぅっ、ふぁっ、――と、る、の、ぉなま、ぇ、は・・・」 そこで再び亮の言葉が固まっていた。 スティールは亮の中に身を埋めたまま、投げ出された足の指を引き寄せ、手を掛ける。 右の爪先に恐怖の感触を覚え、亮の身体がびくんと固まっていた。 「お名前は?」 ガクガクと亮の身体が震え始め、焦点の合わない目が宙をさまよう。 「とぉぅ、の、ぉなまぇ――は・・・」 一分。 二分。 「っ・・・はぁ…、はぁっ…、はっ…、──・・・ぃっ・・・」 新たな爪に今度はじりじりと力が加えられ、亮はのしかかる恐怖に目を見開き、酸欠状態の如く喘いだ。 三分近くが経過し、ゆっくりと亮の唇が動きだす。 ついに亮は一つの名前を口にしていたのだ。 不思議に美しい発音のそれをスティールは余すことなく聞き取ると、緊張に強ばった表情のまま、亮に聞こえるようにそれを繰り返してやる。 「――ですか。とても美しい名前ですね、亮」 スティールがそれを唱え終わった同時に、亮の身体が一瞬淡い輝きを帯びぶれる。 次の瞬間、スティールは自分の中に新たなアルマの従属を感じ取り、口の端をゆっくりと引き上げていた。 「亮、もう一度、言ってごらんなさい。亮の一番好きな人は誰ですか?」 苦しげに閉じられていた亮の瞼がゆっくりとあけられ、自分のすぐ下で自分を突き上げている男の姿を映し出す。 その瞳にもはや怯えの色はない。 「とおぅは、すてぃるさま、が、好き」 うっとりと夢見るように言った亮は、固定された腕を、それでもスティールへと伸ばそうとする。 スティールはそんな亮の様子を満足げに見つめると、再びゆっくりと動き始めていた。 「いい子ですね、亮。今日からあなたは私だけの亮になるのですよ──」 スティールに突き上げられる度、亮は歓喜の声を上げる。 アルマで繋がる従者は主の意志をアルマで感じ取り、完璧に主の下位に置かれることとなる。 亮はスティールの望むまま、従順に、奔放に、快楽に溺れていく。 「っ、亮、いいですか、もう、シド=クライヴのことは、忘れなさい。何もかも、あの男のことは、っ、全部忘れてしまうのです。わかりましたか?」 突き入れながらスティールが囁く言葉に、亮は朦朧とした意識のまま頷いていた。 自分の中から、暖かかった何かがすっと消えていくのを、亮は感じていた。 しかしそれがなんなのか、亮にはわからない。 「それから少しだけ、お勉強しましょうか。──いえ、難しくはありません。あなたは、こうされながらただ私の話を聞いていればいいのですから」 亮は再び、わけもわからずうなずく。 今はただ、スティールに与えられる快楽に身を委ね、揺すられ続けるしかなかった。 「ひ、はぁっ、ぁっ、ぁっ、も、ゅぅして、くらさぃ、も、とぉぅ、しんじゃぅ…のぉっ」 亮は泣きながらライラックにしがみつく。 ライラックはそれを心地よく抱きしめたまま、何度も何度も亮の中に叩き付ける。 「シドのより、いいだろ、あ? シドのよりいいって言えよ、おら」 「ぃぃ、ょぉっ、らいらく、さま、の、シド、のより、ィィです、シドのより、き…ち、いぃよぉっ」 言われるまま亮は繰り返し、亮の言葉にライラックはそれだけで昇天しそうな快感に襲われる。 いつもは従順な振りだけ見せ、瞳の奥に嫌悪感を滲ませていた少年が、今日はライラックに自ら痴態を見せ、淫蕩な顔で彼のモノをねだってくるのだ。 溜まらぬ征服感がライラックを満たし、もっともっとこの少年を乱してやりたい欲望に駆られる。 「いいのかよ。そんなに、いいのか。こんな真似されて腰ゆらしてよぉ。おまえ、ガキのくせに最悪の淫乱だぜ」 言いながら、ライラックは夢中になって亮の中に突き入れる。 その度に亮は耳を塞ぎたくなるほどのあられもない嬌声を上げ、何度も絶頂に痙攣する。 『やっぱ、すげぇな。GMDは――』 規定より少々多めだったが、手に入れたGMDを、ライラックは今日一気に亮へ使ってやったのだ。 その効果はすぐに現れ、生意気なガキは見る間に従順で淫乱な隷奴へと変貌を遂げていた。 こんなことなら、あれほど悩まずにさっさと薬の使用を決めれば良かったと思う。 「らぃらく、さまぁ。とぉぅ、きもち、ぃ、です。シド、のより、ぃ、です」 焦点の合わない目で、たった今教えられた言葉を口にする亮の様子に、ライラックは口の端を引き上げると、亮の身体を抱え上げ、思うさま突き上げ始める。 「ひ、ぃぁっ、ゃぁっ、ぁぅ、っ、ぁっ、ぃぅっ、…、っ、……、は…、……」 「ん、っぉっ、ぉぁっ、ぃ、ぃぃぜ、とぉるぅっ、むおっ!」 自分を包み込み締め上げる亮の内部に、ライラックは呼吸を荒げ、我を忘れて亮の身体を貪り続けた。 亮の声が次第に消え、ただライラックに揺すられ続ける状況になってもそれは変わらない。 動かなくなった亮を抱え、ライラックは何度も中に吐精していた。 「っ、は、ぉぃ、こら、まだ寝るなよ、起きろって、おい!」 二時間近く経った頃、ようやくライラックは亮の異常に気がついていた。 自分の下でぴくりとも動こうとしない亮の頬を何度かはたくと、怒鳴りつける。 しかし亮の瞳は閉じられたままであり、小さく開いた口元からは呼吸の音も聞こえない。 ただするすると一筋の涙が、亮の目元からこぼれ落ちていた。 「おい、亮っ、起きろ、おいっ!」 ライラックは亮の中から引き抜くと、酷く亮の身体を揺する。 しかし少年の身体は糸の切れた操り人形の如く、だらりと投げ出されたまま生の力を感じさせない。 ライラックは顔色をなくしていた。 何度か隣室の扉へ視線をやってみたが、結局そのまま慌てたように身支度を調えると、ライラックは逃げるように部屋を出て行ってしまう。 その扉の音に気がつくと、すぐさまノーヴィスは部屋へ飛び込んでいた。 間髪を入れず、亮の元へ駆け寄る。 しかし、いつもより早く切り上げたライラックの様子を不審に思いながら亮に近寄ったノーヴィスは、次の瞬間表情を凍り付かせていた。 亮の呼吸音が聞こえない。 どんなに酷い状況であっても、今まではちゃんと小さく胸が上下していたし、呼びかければすぐに意識も回復した。 しかし今横たわる亮の胸は、まるで陶製の作り物のように動いていない。 「と、おるさまっ、亮さまっ!?」 心臓に耳をあててみるが、胸の鼓動も聞こえない。 「っ、亮さまっ!!! 亮さまっ、目を開けてください、亮さまっ!?」 何度か頬を叩き、呼びかけてみるが亮に反応はない。 ノーヴィスは叫びだそうとする自分を抑え、ただちにレオンへ緊急コールを掛けていた。 その後すぐに人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。 ノーヴィスの目からぽたぽたと涙がこぼれ落ちていた。 しかし本人はそれすら気づかない。 ひたすら亮の名を呼びかけ、救急処置を続ける。 そして、五分後。 レオン達が部屋に到着した時、ノーヴィスは魂の抜けたような顔で、変わらず処置を続けていた。 亮から引き離そうとしても、狂ったように処置を続けようとする。 「ノーヴィス、キミは隣室で控えていて――」 「亮さまっ! 亮さまが、死んでしまう。私のせいで、私が、何もできないからっ、亮さまっ、亮さまあっ!」 ノーヴィスが他の執事たちに引きずられるように隣室へ連れ出されていくと、異様な静寂が室内に影を落とした。 レオンはノーヴィスの連れ出されていった扉を苦悶の表情で眺めると、すぐに処置を開始する。 第二陣の医師団が到着したのは、それから五分後。 医療局のトップであるベルカーノ・プラムもその中に含まれている。 その日、セブンスは早朝まで騒然とした空気に包まれることとなった。 |