■ 5-101 ■



 目覚めと同時に馬の嘶きが聞こえた。
 己に掛けられていたシャーベットグリーンのタオルケットが幻のように淡く消えていく。
 それが何を意味するのか、彼は瞬時に悟った。
 焼けて張り付き引きちぎれるような肉の痛み。
 折れて突き刺さった骨と内臓の痛み。
 だがそんなものを感じる余裕もなく飛び起き、駆け出し、嵐のような雨のカーテンを突き破って後を追った。
 本能的な危機感が常に胸の中心に居座っていた。
 宝が己の手からこぼれ落ちようとしていると。今いる大地は本当はグラグラで、ミルクに落ちたウエハースのように脆いものであると。
 それが昏睡状態であった彼を揺り起こし瞬時に彼を突き動かした。

 ──扉が開いている!

 混乱と戦慄で叫び出しそうな彼の眼前から消えていく白い馬。
 馬上にある小さな背中。
 何度も名を呼んだ。
 だが少年は振り返らない。

 ──俺は許されないのか。

 そんな疑問が脳内で繰り返される。
 奪われたのはこちらなのだ。それを取り返すことがそんなに悪なのか。
 自分勝手で醜悪な“全体”の益の為に、なぜ自分の命より大切なものを差し出さねばならないのか。

 ──亮がまた連れ去られる。連れ去られてしまう!

 誰に呼び出された?
 誰に操られている。
 ローチか、秀綱か、ビアンコか。
 高熱で溶けた脳で彼の思考はどす黒く渦を巻く。
 亮が自らここを出ることなど──、自分の元から去ることなどあるはずがないのだ。
 何度も亮は自分に懇願した。
 ずっと一緒にいて欲しいと。
 同じく自分も亮に求めた。
 ずっと俺の側に居ろと。
 だから──。この楽園を壊すのは二人以外の誰かなのだ。
 楽園を破壊しようとする蛇の仕業なのだ。

 ──戻れ!
 ──行くな!
 ──亮!

 誰か──
 彼の長い長い人生に置いて一度も口にしたことのない懇願が口からこぼれ落ちた。
 ──誰か、止めてくれ
 ──亮を行かせないでくれ!
 
 もう彼の視界から白馬は消え失せ、少年の背はどこにもない。
 悪夢にひねり潰され、彼の意識はズタズタの身体に引き摺られるように電源が落ちた。
 そうしてまた目覚め、馬の嘶きを聴く。
 何度も何度も同じ体験を繰り返す。
 果てない悪夢の中を彼は走り続ける。









 ■ 対象者概要:
 渋谷秋人 29歳。性別 男性。日本国籍。
 医師であり物理工学者。ミドルティーンで入獄システムの基礎理論を構築し、不可能と言われていた煉獄のマッピング化とそれに基づく正確な煉獄潜行を数式のみで可能にした人物であり、また第一級謀叛罪で手配中のシド・クライヴと三年前まで同区内にて“S&Cソムニアサービス”を共同経営していた過去を持つ。

 □ マル特重要調査対象者:渋谷秋人に対する調査報告書。第97回。
 先の樹根核襲撃事件より99日経過。観察829日目。
 渋谷氏は依然東京都目黒区にある住居兼事務所にて“S&Cソムニアサービス”を単独で続けている。
 新たなソムニアを募集しているようだが何人か面接を行うも、採用には至っていない。
 因って現在この事務所にはソムニアが在籍しておらず、請け負っている仕事はソムニアを対象とした公的書類作成といった代書屋の真似事や、彼の工学的知識を必要とする入獄システムの修理・メンテナンス・コンサル等の案件のみとなっている。
 それでもS&Cの看板を降ろさない点から観察対象としては変わらず重要な位置づけにあると思われる。

 □ マル特重要調査対象者:渋谷秋人 29歳に対する調査報告書。第99回
 先の樹根核襲撃事件より119日経過。観察849日目。
 20XX年1月12日。
 ついに渋谷氏は“S&Cソムニアサービス"のソムニア請負人事業取下げ申請を東京都へ提出。
 その足で『私立杜若井産業医科大学病院』へ向かう。千葉県にある同病院へは昨年3月より入獄システムの新事業部門特別相談員として招かれており独立した小さな研究室を与えられている。<詳細は調査報告書台87回を参照のこと>
 またこの大学病院は、高額な授業料を課すことから裕福な家庭の生徒が通う学園として知られている中高一貫大学を併設しており、彼はそこの客員教授として週一コマ講義を担当している。
 報酬金額は研究・講義分合わせても年収800万程であり多くはないが、研究費において彼の申請は100%無検閲で通されており、破格の待遇で迎えられていると言える。以上のことから、ソムニアサービスを閉じる決断に繋がったのではないかと推察される。
 現在は自宅のある目黒の事務所より通いで研究室に赴いているも、研究室への泊まり込みが増えてきている印象にある。




 報告書を読み進めていた内部監察局中央統括室室長は、燻し銀であると自負する眉間の皺をさらに深くし、デスクに鎮座する最新鋭のハイエンドPCを捜査して画面上に極東支部の若きエースを呼び出した。
 コールを押して十二秒後にCONNECTの文字が点滅すると同時に、二十歳そこそこの整った青年の顔が現れる。
「堂上くん。まだそちらの捜査を続けるつもりかね」
 室長の言葉が終わらぬうちに堂上の顔はフェードアウトし、ゴソゴソと雑音が続いたかと思うと【Sound-only】の表示に切り替わる。
『コールドストーン捜査側への人員は十分割いているはずですが』
 潜められているらしい堂上斎の声は、どこか広い空間に反響しているようで些か聞き取りにくい。
「人数の話をしているわけではなくてだな。君は一応警察局長直々に申し渡しを受けているソヴィロのエースだ。マル特とはいえ一般人である渋谷秋人へ入れ込むのではなく特級SCSのボスであるローチ・カラス探索班へと回って欲しいとそう言っているわけで……」
 特級ソムニア犯罪組織──Exceptional Somnia Criminal Syndicate──いわゆる特級SCSと呼ばれる集団の数は多くはなく世界でも片手の指で足るほどだ。
 そんな重要な組織のトップがシド・クライヴ絡みで現在精力的に動き回っており、彼を捕捉する千載一遇のチャンスが今この時なのである。
 ローチ・カラスはソムニアとしての能力値も桁外れであるという報告も上がっている。彼と対峙するにはそれなりに力のある人物でなければならないということは、自明の理である。
「金丸班長の指示が出ていますか?」
「いや、それはないが──。君の方から志願してもらえば頑固な彼女とて首を縦に振るだろうし──」
「班長からも言われています。渋谷秋人から目を離すなと」
「いや、だから、しかしだねぇ。いくら東京での実績があるとは言え彼女は能力値的にノーマルのSに過ぎない。コールドストーンとの直接戦闘でも起ころうものなら、対処しきれるかどうかわからんだろう。しかも金丸くんは女性だ」
「……ソムニアを長年生きてこられた方のお言葉とも思えませんが──戦闘能力に関して言えば自分は実戦想定訓練に置いて一度も班長に勝てていません。僕が金丸さんより勝っているのは能力値という数字だけなんですよ。悔しいですが」
「それは訓練での話であって」
「いえ。実践に近づけば近づくほど僕では歯が立たなくなる。室長も一度訓練に参加してみては? 終わった瞬間、訓練で良かったと涙が溢れてきますから」
 堂上の言葉に赴任したばかりの内部監察局中央統括室室長は盛大な溜息をつき、モニターの【Sound-only】の文字を眺めた。
 ピカピカに磨かれたグレア画面は文字の背後に彼の苦り切った顔を反射させ、くたびれた中年男性の悲哀を容赦なく映し出している。
「では講義に戻ります。週に一コマしかない貴重な時間ですので」
 内容も爽やかな声音も真面目な大学生そのもので、室長はさすがに詰める口調で問いただす。
「キミは今どこにいるのかね。確か内部調査局に移ってからは業務と平行で通っていた大学も休学したと報告を受けているが」
「もちろん職務遂行中です。引き続き渋谷秋人の調査を続けます」
 通信は部下の側から一方的に切られてしまう。
「はぁ……。任務どころか彼のゼミに本気で志願してしまうんじゃないのかね」
 行政法務部から赴任した手の室長は、人手不足による弊害を骨身に染みて感じながら眉間の皺をもみほぐした。







 最初はこの感覚がなんなのかわからなかった。
 身体の芯から滲み出てくる何かが己の肉体を震わせ身を縮める。
 これが寒気だと気づいたのはどのくらいの時が経った頃だろう。
 見知らぬ白い天井。
 布を貼られた白い仕切り。
 薬臭い上掛けが己の身を包んでいるのを感じながら、彼は身動きすることを自ら制した。
 襲い来る熱発の波と、ともすれば落ちていきそうな意識をつなぎ止め呼吸を変わらず続けることを意識する。
 何者かが近づいてくる。
 ここがどこかはわからない。
 今がいつなのか、自分の状態がどうなっているのか、何もかもわからぬままそれでもシドは身に染みついた野生の動きを瞬時にとっていた。
 微かな金属音。
 近くの扉が開かれた音だ。
 寒さで全身を震わせながら、手負いの獣は辛うじて力の入る両手を握って開き、目を閉じたまま獲物が来るのを待った。





 堂上斎は形ばかりのノックをすると研究室のドアノブをそろりと回す。
 鍵は掛かっていない。
 学生然と「失礼します」と声を掛け、中へ身を忍び込ませるとすぐに扉を閉めぐるりと辺りをうかがった。
 ここに部屋の主である客員教授は不在であることは織り込み済みであるが、それでも神経を張り巡らせ物音一つ聞き漏らさぬよう細心の注意を払うことを怠らない。
 北校舎の外れ。四階の角部屋に位置する室内は、北側に取られた窓からカーテン越しに差し込む陽光により、きちんと整理されたモダンなオフィスのような様子を寒々しく浮かび上がらせていた。
 窓際に置かれたデスクには新たな職場で渋谷氏が取り組む仕事の全てを入れ込まれているであろうPCが、スリープ状態のまま本体内部より白いLEDライトを点滅させている。
 このスタンドアロン機のストレージに、シド・クライヴを追う手がかりとなるデータも存在している可能性は大きい。
 PCの内容を直接コピーしに掛かるか否か、ほんの三秒考えた堂上はふと首を巡らせた。
 隣室に人の気配を感じたのだ。
 この学園の教授室棟は全館金に飽かした素晴らしい造りにより、壁に防音材がふんだんに入れ込まれているのだが、その恩恵にあずかりきった籠もったような静寂の中、ソムニアである彼の聴覚を刺激する不穏な空気の振動を彼は確かに感じ取っていた。
 現在渋谷氏は事務局の呼び出しで別棟へ赴き、この部屋には誰もいないはずである。
 気配がしたのは東側に張り付く扉の向こう。
 その先は渋谷秋人が宿直時に使っているプライベート空間であるという報告は受けている。
 僅かな逡巡のあと堂上の足は隣室への扉へ向かう。
 ノブの吐き出す小さな金属音にすら神経を尖らせつつ、ゆっくりと銀のそれを回転させれば何の引っかかりもない。
 堂上はゆっくりと扉を押し開け、身体を隙間へと滑り込ませていた。
 左手にある大きめの窓にはアルミ製のブラインドが降ろされており室内は薄暗い。
 わずかに薬品臭が漂い、人がいないはずにも関わらず生暖かいエアコンの風が室内を緩く掻き回していた。
 奥の壁には堂上には何に使うのかすら見当も付かない巨大な機械がスチールケースに収まり室内を圧迫している。
 右手は白い布製の仕切りが二面に渡り立てられていて、今の位置からでは堂上にはこの向こうに何があるのか全く見えていないも同じであった。
 緊張感で鳴りそうになる喉を僅かに震わせ、堂上は静かに。だが素早く足を運ぶ。
 衝立の向こうに誰かがいる。
 何者かの緩い息づかいが彼の耳にははっきりと届いていた。
 思わず銃を取ろうと右手を腰に伸ばしかけ、今日は丸腰だったことを思い出し唇を噛む。
 代わりにジャケットの内ポケットから空間錠を取り出し、衝立の向こうに回り込んだ。
 視線の先には小さなキッチンセットとシングルベッドが一つ。
 ベッドの中では何者かが毛布に包まり寝入っているようである。
 その膨らみから察するに大人の男であろうことだけが窺い知れた。
 堂上は相手が暴れ出す前に腕を捻り上げようと、電光石火の動きで男に取り付くと身体を押さえ込みにかかる。
 跳ね上げられた毛布。響く怒号。
 強い抵抗に堂上は降り飛ばされそうになり、つかんだ腕にソヴィロの熱を集中させた。

「っあちっ、何、熱っつ!!  ごめんなさい、誰!? すいません、すいません!!」

 ベッドから転げ落ち悲鳴を上げたその男は、茶色い瞳を皿のように見開いて堂上を見上げた。
 明らかに若いその男は堂上と同年くらいであろうか。
 床に尻もちをついたまま怯えたようにこちらを見ている。
 堂上の全身から一句に張り詰めていたものが抜けていった。

「あ、あんた何なんだよ! 焼きゴテ当ててくるとか手錠出してくるとか、頭おかしいんじゃないか!?」

 一般人には今堂上のとった行動の意味も内容も分からない。完全に暴行犯を見る顔つきだ。
 学生らしき青年は突如降りかかってきたいわれなき暴力に怯えながらも、強い反抗の意志を示している。

「焼きゴテ? 手錠? そんなもの持っているわけないだろう。パニックになって変な言いがかりを付けるのはやめてくれ」

 ひらひらと手をかざして見せしれっと言い放つ堂上に対し、学生は目を白黒させながら首をひねっている。
 確かに堂上の手には何も持たれてはいないし、コテのような大きな物を隠し持っているようにも見えないからだろう。

「僕は渋谷先生に今日の授業について少し質問があったから来ただけなんだが──、驚いたのはこっちの方だ。キミこそここで何してる。渋谷先生はご不在の様子だというのにこちらの部屋で物音がしたから覗いてみれば」
「お、俺はちゃんと先生に許可もらってここに居んだよっ! 先生に言われて資料の整理をしてる最中で……」
「こんな暗い部屋でか?」
「ちょっと一休みだよ! 明るくちゃ寝られないだろ」
「なんで寝る前提なんだ。頼まれ事されているのに無責任すぎないか? そんな学生に先生が大事な研究資料を任せるとは思えないが」
「……っ、俺は優秀だから頼まれてるわけじゃねーの! 単位がぁ、その、ちょっと足りなくてだな。それをどうにかしてもらう為に手伝いをしてるっていうか……」

 逆ギレ気味だった学生は次第にごにょごにょと尻すぼみに言葉を濁す。

「……ってか、あの資料の山見ろよ。こんなのやってらんないだろ!? てっきり俺はレポートの一本でも書けば何とかなると思ってたのに、まさかこんなことになるとは思わなかったっていうか……、一眠りしたらそれから頑張る予定だったんだよっ」

 見ればベッドの奥にあるデスク上には二抱えはありそうなコピー用紙の山がそそり立ち、床上にまで崩れかかっている。
 いったい何枚あるのか目測では換算できそうにないレベルだ。
 堂上は呆れた溜息をつくと腕を差し出し、倒れ込んだままの彼を立ち上がらせる。

「週一講義の単位を落とすのもうなずける奴だ」
「偉そうに。あんただってアッキーの授業が訳わかんねーから聴きに来たんだろ? 同じ穴の狢って奴じゃねーか」

 彼が何を言っているのか本気で全く理解出来ず、堂上はそれ以上の会話を諦めた。

「おまえ何年? 良かったらここでアッキー帰るの待ってたらどうだ? 一緒に資料整理しようぜ」

 床に散らばる紙束の一部を押しつけられ重要な情報かもしれないと目を走らせてみたが、そこに書かれていたのは数式らしき物の走り書きであり、どうやら研究論文の一部か何かではないかと思われた。
 十代にして入獄システムの基礎を築き上げた天才が、コピー用紙に殴り書きし頭の中の物を吐き出しているというのが意外で面白いと感じた。こういうものはPCで直接か、さもなくば良い紙の立派なノートに綴られるものかと勝手にイメージしていたからだ。
 渋谷秋人の研究については個人的には大変興味をそそられるが、仕事において言えばは全く関係の無い内容である。
 少々惜しいと思いつつ、職務を全うすべくここに長居は無用であると判断する。
 あまり深入りして存在を意識されてもまずい。

「これは資料とは呼ばなくないか?」
「そう? 紙束に難しそうなこと書かれてたら資料だろ。それ、インクの色ごとに分けて、順番通りにしてファイルすんの。順番通りってのがさ……全くわからんねーんだこれが」

 ここで学生は何が面白いのか一番の笑顔を見せた。
 杜若井医科大学の学生達は概ね彼と近い水準であるが、彼ら全員、八年掛けたら立派な医師として巣立っていくものなのかと堂上は色々心配になってくる。

「俺がインクの色で分ける役やるから、あんたは順番に揃えてってくれよ」

 すでに手伝わせる気満々の彼に紙束を押し返すと、
「悪いが僕は単位確実なんだ。キミの単位獲得につきあう時間はない。まぁ、がんばってくれ」
 一言エールを送り部屋を後にする。
 あの緊張感は何だったんだと妙な疲れを感じつつ廊下に出ると天井を仰いだ。

「シド・クライヴがこんな場所に潜伏しているわけもない──か」

 思わず小さな呟きが口から漏れた。
 また人のいない時を見越して出直してこなくてはと天井を仰いだ。




 遠ざかっていく足音に耳を澄ませていた“資料整理中の学生”は、大きく息をつくと、客員教授に質問をしに来た学生がベッドの底に取り付けた盗聴器を指先で潰しながら「うわ、ゴキブリ、ウソだろ、やめろ、こっちくんな」と何もいない虚空に向かい叫ぶ。
 完全に電源の落ちたそれをさらに床でふみつけながら、 
「こんな場所に潜伏してるわけもない──なんて言いつつ、ここに狙い定めてくんのやばすぎだろ、あの優等生」
 と、ポツリと本音を吐いていた。
 防音設備の整った室内から廊下でのささやかな呟きを聞き取った久我貴之は、秋人から直接預かっている端末を操作すると一報を入れる。
 新たな拠点となったこの場所でも気は抜けそうにない。
 IICRの手は世界中のどこにでも張り巡らされていて、自分たちが何者にも干渉されずに過ごせる場所など在りはしないのだと痛感させられた。
 それでもやり遂げなくてはいけない。

「やれるさ。そうだろ、成坂」

 久我はデスク上のPC画面を灯すと、秋人に指示された通り画面上に映し出された螺旋状の波形の観察を続ける。
 次々と現れる波形と数字を凝視し、時折手元のコピー用紙にそれを書き写し始めた。
 その筆跡はうずたかく積まれた紙の山に記されたものとよく似ていた。